この日から、「米国第一」だけになるのです。米国第一です。
ついに、アメリカ第45代トランプ大統領の誕生です。日本時間21日未明、異例づくしの就任演説の中継をテレビの前で見つめました。親指を立て自信たっぷりの笑みを浮かべて登場すると、いつも通り「トランプ節」がさく裂。目新しさはありませんでした。既得権層を批判し、外交・経済の両面において国益を最優先する改革で、改めて強いアメリカの再生を訴えました。
正直なところ11月の大統領選の結果が出た時は、ある意味、楽観的な思いを抱いていました。選挙中は誇張した表現をしていただけで、大統領に就任すればより落ち着いた政策になるのではないか。またトップが一人変わっただけでアメリカの理念はそう簡単には失われないのではないか、と。けれども、淡い期待は就任演説や大統領令によって見事に打ち破られました。
メキシコとの国境の壁建設、TPP脱退の表明、NAFTAの再交渉、オバマケアの見直しーー。具体的な政策が示されていないため、どこまで実効性があるのかは疑問です。それでもアメリカ、そして世界が今まさに転換期にあり、これから大きな変化がもたらされるのだということを実感しました。
昨夏アメリカのニューヨーク州を訪れた際、駅前の道や地下鉄の中で物乞いをする白人達の姿を目の当たりにしました。今思い返してみれば、それは米国に存在する大きな格差社会の一端であったのかもしれません。就任演説では、選挙で多くの支持を得た白人の中間層・貧困層に向けたメッセージが目立ちました。「私たちが守るのは二つの単純なルールです。米国製品を購入し、米国人を雇用することです。」トランプ氏はわかりやすい言葉を使ってグローバル化からこぼれおちた白人労働者層の怒りを拾い上げ、保護主義を貫くと強調しました。しかし長い目で見れば、移民排斥や自国主義経済がアメリカに恩恵をもたらすとは思えません。
アメリカの分断も深刻です。就任式の間も抗議デモが相次ぎました。各紙の朝刊には、異なる立場から複雑に揺れるアメリカの姿が映し出されています。けれども、国民の融和を求めるトランプ氏の言葉はほとんどありませんでした。もちろんグローバル化によって生じた格差を見逃すことはできませんし、変化が求められている時代なのかもしれません。しかし「自国主義」の単純な政策は、人々の亀裂を助長し、持続的にアメリカを繁栄させるとは思えないのです。トランプ政権が壁にぶつかったとき、国民の声に耳を傾けてバランスの取れた政策に転換するのか。それとも自国優先の急進的な政策路線を続けるのか。将来は、まったく見通せないものになりました。
それでも内向き志向が進み多様性と寛容さが失われつつある世界を、悲観しているだけではいけません。混迷を極める時代において、日本には国際協調主義を打ち出し、冷静に現実を見つめながら柔軟に対応する姿勢が求められています。積極的な外交を展開し、各国と関係を築いてきたと自負する安倍首相の手腕が問われる時でしょう。トランプ氏は他国との関係の見直しも示唆しました。近いうちに、安倍首相とトランプ氏の会談も行われるでしょう。私たち日本は地道で粘り強い対話を通じて、他国との協力・協調を模索しながら、未来を切り開いていかねばなりません。
1月21日付け 各紙「トランプ大統領誕生」関連面