年の瀬に思う、「過労死なくせるか」

  来春から、主にビジネス誌を扱う出版社で働くことを決めました。「働く人・企業の『産業応援団』でありたい」という理念に共感し、「ビジネスパーソンを陰で支えられるような記事を書きたい」という思いから入社を決めました。しかし、広告大手・電通社員の高橋まつりさん(当時24)の過労自殺などのニュースを見るたび、「社会に出ることが楽しみであると同時に怖い」と思うようになりました。「応援団」であるはずの書き手側がそのようなことを思っていてはいけない。そう考えることもありますが、やはり「働くこと」への不安は尽きません。

  厚生労働省は昨日、過労死防止の緊急対策をまとめました。違法な長時間労働を社員にさせていた企業の社名公表基準を厳しくしたうえ、これまでの「月100時間超」から「月80時間超」へ対象を広げ、来月から順次運用を始めます。この方針は、厚労省の「長時間労働削減推進本部」の会合で「『過労死等ゼロ』緊急対策」として決まりました。電通の高橋さんの死が、9月末に労災認定されたことを受けてまとめられました。同省によると、2015年度に月80時間以上の残業をして過労死・過労自殺と認定された人は151人にのぼり、月100時間超の違法な時間外労働による是正勧告は約500件ありました。担当者は「新基準によって公表対象の企業はある程度増える」としています。

  パワハラ防止策も強化します。現在の労働関係法令にはパワハラを規制する条文はなく、労働局が企業に是正勧告をすることはできません。緊急対策では、精神障害による労災認定が3年間で2件以上あった企業に対して、来年度から「パワハラの疑いがある」との前提で指導に乗り出すことが盛り込まれました。また、企業がつくる経済団体への働きかけも強め、残業時間の上限を労使で定める協定(36協定)を結んでいない企業への指導などへの協力を要請します。

  いたましい事態を機に、こうした緊急対策がまとめられたことは、社会にとって大きな前進だと思います。特に、これまで規制がなかった「パワハラ」について防止策が決められたことは、大きな意味があることだと考えます。しかし、疑問に思うことは「高橋まつりさんの過労自殺を受けて」緊急対策がとられたという点です。日本の自殺者数は減少傾向にあるものの、「勤務問題を原因の一つとする」自殺者は2159人にのぼります(平成27年度)。多くの人が命を落としていたこと、高橋さんの過労自殺は氷山の一角であることを忘れてはいけません。

  「仕事はつらいのが当たり前」だと思いますが、働くことに対するポジティブなニュースを2017年は多く聞けることを願います。私自身も、これからも「働くことはどういうことか」考え続けていきます。

 

参考記事:

27日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「違法残業 社名の公表拡大 厚労省 過労死防止へ対策」,6面(経済)「パワハラ防止策も強化」

同日付 読売新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「違法残業『80時間超』で公表 厚労省 月100時間から厳格化」

同日付 日本経済新聞朝刊(大阪14版)1面(総合)「違法残業 社名公表厳しく 厚労省、月80時間超を対象」,5面(経済)「『時間ではなく成果』で成長へ 違法残業是正 働き方、慣行切り替えるとき」

 

関連資料:

平成27年度 厚生労働省資料

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/siryou1-3_1.pdf