松竹座閉館へ 文化発信地は今後どうなる

大阪・道頓堀は、大人気の観光スポット。グリコサインがある戎橋や、たこ焼き屋、串カツ屋が並ぶ通りには内外からの多くの観光客が行き交っています。にぎやかな空間の一角に石造りのビルがあります。重厚感のあるこの建物は劇場「大阪松竹座」です。先月28日、来年5月の公演を最後に閉館することが発表されました。公演は他の劇場やホールで継続するということですが、やはりさみしい気持ちになります。

1923(大正12)年に活動写真館として開業した大阪松竹座は、開場102年を迎える老舗です。太平洋戦争中の大阪大空襲では一帯が焼けたものの、松竹座は残りました。読売新聞によれば、戦後は映画館となり、94年に一時閉館。アーチ形の正面外観を残して建て替えられ、97年に演劇専門劇場として再開場したそうです。現在は歌舞伎や松竹新喜劇、ミュージカル、コンサートなどの舞台が続いています。「道頓堀の凱旋門」と呼ばれ親しまれましたが、設備の老朽化には勝てませんでした。

2024年9月29日 筆者撮影

筆者は2回松竹座で観劇したことがあり、昨年9月にはステージ体験ツアーにも参加しました。花道を歩いたり、舞台上の迫り(せり)に乗ったりして、貴重な体験をすることができました。舞台上から見ると照明がキラキラと輝いていることが印象に残っています。

2024年9月29日 筆者撮影

道頓堀は芝居の街として栄え、江戸時代には「道頓堀五座」(浪花座、中座、角座、朝日座、弁天座)と呼ばれる芝居小屋がありました。江戸時代の劇作家、近松門左衛門の歌舞伎や人形浄瑠璃の作品は大半が道頓堀で初演されたそうです。観劇客をもてなす芝居茶屋も軒を連ねていたといい、歌舞伎などの伝統文化を発展させた場所と言えます。

日経新聞によれば、大阪でほかに上方歌舞伎ができる大きな劇場はなく、公演数の減少が危惧されます。大阪府や市が文化政策に力を入れ、2024年、25年の公演数は年間5~7回で従来の倍に増えていました。現在、映画「国宝」の大ヒットで歌舞伎に注目が集まっている中で、大阪で鑑賞する期待が減ってしまうことは痛手となりそうです。

国内では他にも東京の帝国劇場が閉館し、建て替えが決まっています。23年に閉場した国立劇場は建て替えの見通しが立っていません。資材費や人件費の高騰で入札が難航しているそうです。読売新聞では「この問題への関心が、伝統芸能の関係者以外にはさほど広がっていない現実も直視すべき」だとし、「観客の力」を掘り起こして結集させ、再開場への起爆剤にする具体論が求められている、と述べていました。老朽化で劇場の閉鎖が相次ぐ中で、若い世代にも観劇や伝統文化の魅力を伝えていく必要があります。

今回、道頓堀と大阪松竹座の歴史を改めて知り、歌舞伎や演劇への興味がわいてきました。閉館までにぜひもう一度足を運びたいと思います。

大阪松竹座の建物を今後どうするかは未定だそうです。戦禍を耐えて道頓堀を100年以上見守ってきたランドマークとして、そして江戸時代から続く文化の発信地として再生を果たし、道頓堀にあり続けることを願います。

 

参考記事

8月29日付 読売新聞朝刊(大阪13版)1面「大阪松竹座 閉館へ」関連記事28面

参考文献

7月3日付 読売新聞オンライン「建て替えの見通し立たぬ国立劇場、「一日も早く再開を」と人間国宝らが首相に署名提出」

8月28日付 日経電子版「道頓堀の大阪松竹座ビル閉館、興行は26年5月で終了 設備老朽化で」

2021年2月2日付 日経電子版「食い倒れの道頓堀、芝居の街だった 英米超す活況400年」

1月16日付 日経電子版「東宝、帝国劇場の設計に小堀哲夫氏起用 2030年度竣工」

 

道頓堀商店街オフィシャルサイト