国内最大級のアマチュア無線イベント「ハムフェア2025」が8月23、24日に開かれ、2日間で約4万人の無線愛好家が東京・有明GYM-EXに詰めかけました。会場内にはメーカーの新型機から無線家が自作した機器まで幅広く展示され、機械好きにはたまらない空間です。数多くあるブースの中から印象に残った南極地域観測隊の中村映文さん(53)と東京大学無線部の伊藤麗生(れお)さん(21)にお話を伺いました。
南極・昭和基地にもアマチュア無線局があることを知っていますか。基地に通信技術を提供する会社で働く中村さんは2022年、第64次南極地域観測隊として南極に行きました。64次隊のメンバーは越冬隊長1名、気象の研究に専念する観測部門10名、観測部門をサポートする設営部門17名で構成されます。設営部門の職種は調理師や医者、建築専門家など多様で、中村さんは衛星通信を管理するLAN・インテルサット担当でした。基地でインターネットを使うためには、7.6mの大きなパラボラアンテナから衛星を経由し、山口県にある受信設備まで通信する必要があります。中村さんは、この通信インフラの整備を任されていました。
アマチュア無線の使用は業務に含まれていないため、業務時間外に限られます。業務時間は午前9時から午後5時のため、アマチュア無線には昼の休憩と午後7時の夕食後を充てたことが多かったといいます。無線が大好きな中村さんは、日によっては夜中の3時くらいまで交信していたこともありました。無線は社団局として運用され、2023年1月から24年2月までに6,500局を超える日本のアマチュア無線局と交信ができました。最長距離は1万9410キロ離れたアラスカ地域です。中でもドイツ、ロシア、オーストラリアの南極基地との交信は印象に残っているといいます。「基地同士の交信は特別感があり、(興奮して)手が震える感覚でした」と中村さんは振り返ります。
南極では使用していた八木アンテナは天候による影響を受けやすく、時折やってくる強風やブリザードで壊れてしまったこともあったといいます。設置して2週間で吹き飛ばされてしまった際は、衛星や無線に関係のない設営部門の方々が手伝ったくれたこともあったといいます。「南極のような過酷な環境では、自分の専門分野の垣根を越えて助け合うことが大切だったと感じた経験です」
現在は、アマチュア無線を楽しむ若者は少ないように感じます。中村さんが第4級アマチュア無線技士を所得した1992年は、無線が流行っていて、免許も友達に誘われて取得したといいます。無線全盛期と現在とでは、若者の自由時間の使い方が大きく変わったと感じる中村さん。「今の若者はインターネットを使い自由時間を楽しみますが、昔はスマホがなかったため、電化製品を分解して遊んでいた人も多かったです。自由時間にスマホから離れてみると新たな発見があるかもしれません」と話します。
会場には多くの大学無線部のブースが目立ち、学生が行き交っていました。無線部は普段どのような活動をしているのでしょうか。東京大学無線部の伊藤さんにアマチュア無線の楽しさをお聞きしました。
東大無線部は文系学部や他学の学生も在籍しており、約30人で活動をしています。メインの活動内容は年に4回開かれる交信数を競うコンテストで上位に食い込むこと。ビルが立ち並ぶ都心ではうまく送受信できないこともあり、レンタカーを借りてキャンプ場に行くこともあるといいます。伊藤さんは「楽しみ方は人それぞれですが、理系学部の学生が多いからか、電波の仕組みに関心を持っている人が多いです」と話しました。
また、アマチュア無線は災害時の通信手段として注目されています。2016年の熊本地震では、SOS無線がきっかけで、被害状況が伝わったという事例があります。無線機から直接電波を出し、不特定多数の人にメッセージ送れる仕組みは、通信インフラが遮断された時でも大いに活躍できるでしょう。
会場内は年配の方が目立ちますが、無線機を片手に歩く子供や外国人の姿も見受けられました。Youtubeでイベントを知ったというイギリス出身の男性(16)は最近取得した免許を日本向けに切り替えるために訪れたといいます。「日本ほどではないが、イギリスでも無線は人気がある。無線友達はいませんが、私が帰国した際にイベントの話をすればみんな興味をもってくれると思う」と話してくれました。スマホで簡単に電話ができる今だからこそ、無線機を通した一期一会の会話を楽しんではいかがでしょうか。
参考記事:
8月28日付 読売新聞オンライン 「こちら万博 無線で世界にコンニチハ」…8K3EXPO、体験どうぞ(https://www.yomiuri.co.jp/expo2025/20250828-OYO1T50052/)
8月8日付 日経新聞電子版 アマチュア無線、大阪万博に55年ぶり開局 通信体験で世界とつながる(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF01BKO0R00C25A7000000/)