隊員が語る地域とのつながり 地域おこし協力隊が支える過疎地の将来【後編】

過疎化が進む地方に移住し、地域の問題解決や活性化に携わる「地域おこし協力隊」。筆者は山形県西川町で活動する2名の隊員を取材しました。なぜこれまで住んでいた場所を離れ、西川町で地域おこし活動に携わることを選んだのか、それぞれどんな取り組みをしているのか、そして実際に活動してみて感じた制度の利点と課題について伺いました。

 

協力隊に応募するまで

1人目は京都市出身の礒合勇斗(いそあい・はやと)さん(27)です。礒合さんは大学院で農学を学んだのち、約1年をかけて全国各地を旅していました。その途中で西川町の協力隊インターンに参加した際に、現地でアテンドをしてくれた方から声をかけられたそうです。「仕事を体験することで、その大変さを知り、他人を思いやれるようになる人が増えてほしい」という思いから、体験の機会を提供する活動に興味を持っていた礒合さん。さらに都会よりも田舎の環境に魅力を感じていたこともあり、西川町の地域おこし協力隊員として活動することを決めました。

礒合勇斗さん(8月13日、筆者撮影)

もう1人は山形県酒田市出身の伊東絵里子さん(40)です。県内の高校を卒業後上京し、会社員として働いていました。北欧でツアーガイドを務める知人に誘われてデンマークを訪れた際、その自然豊かな環境に触れ、「地元の山形でも同じようにガイドができるのでは」と考えるようになりました。その後、夫とともに西川町で田舎暮らし体験住宅に入居。町民の温かい歓迎を受け、ここに拠点を構えようと決めました。現在は協力隊員としてツアーの企画・添乗を担うとともに、体験型ツアーの開催に向けた準備も進めています。

伊東絵里子さん(8月13日、筆者撮影)

現地での活動

礒合さんの主な仕事は、協力隊インターンのアテンドです。西川町を訪れたインターンは、主に企業や町民のお手伝いをしながら地域を学びます。礒合さんは活動先への送迎やスケジュール調整に加え、地元食材を使った料理の試食などの地域文化体験を通じて町の魅力を伝えています。「自分の経験を活かしつつ、新しいスキルを磨けるのがやりがいです」と礒合さんは話します。

一方、伊東さんはツアーの企画・添乗を中心に活動しています。これまで、大学生や協力隊インターンなどを対象にツアーを実施し、町の魅力を発信してきました。また座禅や農業体験などを組み合わせた新しいプログラムも準備中です。長年町で営まれてきた農業などをツアーに取り入れるという提案に、住民は新鮮な驚きとともに期待を寄せました。伊東さん自身も、「自分のやりたいことが町に必要とされている」と実感したといいます。来年の開催に向けて、現在は住民へのヒアリングを重ねています。

制度の利点と課題

隊員として活動するお二人が共通して挙げた利点は、地域おこし協力隊という制度が新しい挑戦の場を提供してくれる点です。礒合さんは「スキルを活かして地域に貢献しながら、自分も成長できる」と話します。さらに制度によって活動費用を補える実務的な利点もあります。伊東さんは「役場職員ほど肩書きが堅くないので、地域に受け入れられやすい」と感じているそうです。また協力隊の活動期間が最大3年間と定められている点についても、「いきなり定住は難しい人でも、3年のお試し移住だと思えば挑戦しやすい」と評価していました。

一方で課題も少なくありません。礒合さんは「隊員同士の交流が少なく、お互いの活動が見えにくい」と指摘します。他の隊員と連携する機会が乏しく、町民にも活動内容が十分に伝わっていないと感じていますが、最近は町の公式SNSで情報発信が始まり、改善の兆しが見えているそうです。また伊東さんは「協力隊という名前のせいで『何でも屋』と思われることがある」と話します。加えて、西川町には現在16人の協力隊が活動していますが、定住率は低いのが現状です。伊東さんは「せっかく集まった人が定住したくなる仕組み作りが必要」と強調していました。

 

取材を通じて、協力隊員のみなさんはそれぞれの経験や背景を生かし、多様な分野から地域活性化に貢献していることが分かりました。活動の内容は異なりますが、共通しているのは「地域と外部をつなぐ存在」であることです。

地域おこし協力隊は、地方に新しい風を吹き込み、挑戦を後押しする仕組みとして大きな意義を持っています。その一方で、定住の促進や町民への広報といった課題も残されています。今後も地域とのつながりを深め、持続可能な活動へと発展させていくことが求められます。

 

 

参考資料:

ツキノワ合同会社 TSUKI no WA

株式会社おてつたび 西川町総合開発株式会社 求人・旅バイト

西川町 西川町地域おこし協力隊員紹介