相次ぐ航空機事故 自らの操縦経験をもとに考える

1985年8月12日、羽田発伊丹行きのJAL123便が群馬県の御巣鷹の尾根に墜落し、乗客乗員520名が亡くなった事故から、40年を迎えました。映画『クライマーズ・ハイ』では、記者がこのジャンボ機墜落事故を取材した様子が描かれています。未曽有の大事故の重さに「何をどう取材すればいいのか」と悩み、現場から逃げ出したい思いだったと綴っています。それだけ大きな事故であったことが分かります。

昨今、世界で航空機事故が増えています。2024年1月2日には、羽田空港で日航機と海保機が衝突して炎上、同年12月には韓国にてチェジュ航空機が胴体着陸後に滑走路外のコンクリート製の構造物に激突して炎上する事故もありました。事故が相次いでいることから、飛行機に乗るのが怖いと話す友人もいました。

筆者は、大学でグライダーと呼ばれる航空機を操縦する部活に所属しています。生命に関わることもあるため、安全に配慮した運航は欠かせません。「①安全」「②保守」「③効率」の順番のもと、訓練を進めています。機体や機材を長く使用するための保守や、フライト回数を増やすための効率も大切ですが、安全に代えられるものはありません。

グライダーとは
エンジンなどの動力を用いずに滑空し、上昇気流を利用することで、長時間そして長距離の飛行をすることができる乗り物です。滑空を始めるためには高度と速度が必要であるため、曳航機とよばれる飛行機もしくはウインチという曳航装置とグライダーとをワイヤーでつなげ、300-400mの高度まで引き上げてもらう方法で離陸します。一方、自力で離陸できる動力を備えた動力滑空機もあります。

動力滑空機で42分間のフライト訓練を終え、福井空港着陸後の筆者

2024年8月5日撮影

*安全に支障のない状態で撮影しております。

些細な不注意や知識不足が、パイロットの人命だけでなく、地域住民の生命や財産に損害を与えてしまう可能性があります。規則や作業手順が決められているのはなぜかを考え、複数人でダブルチェックするなど、ミスを減らす対策は怠れません。同じ事故を起こさないように、過去に起こった事故から学び、議論することもあります。一方で、航空機はバランスが大切です。重量重心位置が許容範囲内であるかを毎回のフライトで確認しています。範囲内でなければバラストと呼ばれる、鉛の重りで調整します。

また、訓練中は部員一人一人が声を出すようにしています。しっかりとしたコミュニケーションが取れていなければ事故の危険性が高まります。少しでも疑問に感じたことがあれば、先輩後輩に関係なく他者に相談するなど、意思疎通がしやすい環境作りを大切にしています。ここで紹介したことはほんの一部に過ぎず、安全への追及にゴールはないと感じました。

 


お盆の帰省ラッシュで混み合う羽田空港第2ターミナル

2025年8月10日筆者撮影

航空会社や航空機メーカーが安全のために、普段からどのような取り組みをしているのか、分からない部分もあります。安全に対して講じている具体的な対策を公表すると、より安心して搭乗できるようになるのではと考えます。

また、「経営の安定」と「安全」は切り離せない関係にあると考えます。昨今国内線を取り巻く状況は厳しくなっています。コロナ禍を通して、対面ではなくオンラインでの商談が増え、単価の高いビジネス層の利用者数は減少しました。国内線の日帰り旅客のうち「出張・業務」を目的とした人の数は、19年の約317万人から24年には約103万人にまで減少したといいます。さらに今後日本の人口が減少する中で、地方路線の需要が減ることは避けられません。ウクライナ情勢などにより、燃料代も上昇しています。各地で新幹線が延伸するなど、他の輸送機関との競争は激化しています。需要を喚起するためか、セール運賃が展開されているのを頻繁に見かけます。

北海道・利尻空港にて筆者撮影 2023年9月23日

そのような中、ANAは収益性が悪化している国内線のうち、全国8路線で減便や運休することを発表しました。利便性が損なわれる可能性もありますが、安全な空の旅をこれからも続けるためには、私たちもこの状況を理解し、受け入れていくことが求められます。

 

参考記事

2021年5月26日、朝日新聞デジタル、「記者が感じた「クライマーズ・ハイ」 野心と苦い思い出」https://www.asahi.com/articles/ASP5S52N3P53UHNB00B.html

2025年5月30日、朝日新聞デジタル、「国内線が苦境、ANAは6割が赤字路線で「維持困難」 国が対応議論」

https://www.asahi.com/articles/AST5Z3DDZT5ZULFA001M.html

2025年8月19日、日本経済新聞電子版、「ANAが北陸便見直し 小松―羽田9年ぶり減便、富山―札幌期間運休」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC195Y60Z10C25A8000000/