選挙全体とこれからを俯瞰した大局的な視点は各社の政治部長が論じている。そのため私の視点からは各党にフォーカスした形で、今回の参院選を総括したい。
自公は敗北しながらも粘りを見せた選挙戦だった。朝日・読売両社が報じた終盤情勢は自公への支持が下振れした場合の議席数を30台前半と算出し、中央値もともに40台前半にとどまった。しかし、結果は自公で合わせて47議席。32ある1人区で終盤に優勢が伝えられた選挙区は5程度だった中でも、最終的には14勝を掴んだ。
政治とカネや関税交渉の進展がなかったこと、インフレ対策への解が示せなかったことへの有権者の目は確かに厳しかった。しかし、この揺れ動く世界情勢で政治空白を作れないと考え、外交や政策面の経験が豊富な自公に託す消極的な投票をした人も多いのではないか。だとすれば、ここで内輪揉めなどをしている暇はない。そうした人々の期待や信頼に応えることが重要だろう。石破首相は8月中に自らの進退と、今後の方針を示すべきだ。次の国政選挙までに結果を出せなければ、いよいよ自民党は取り返しがつかない事態に陥るのではないか。
野党第一党の立憲は改選22議席の維持に終わった。執行部の責任論に発展する兆しはないものの、事実上の敗北ではないかとする声もある。議席が伸びなかった理由は明白で、政権批判票の受け皿になれなかったことだ。加えて、1人区での取りこぼしも目立った。二大政党制が崩れつつあること。さらに既存の政党への不信と国民感情の右傾化も合わせ、3つの逆風を受ける立憲も、次の選挙が正念場なのではないだろうか。左派の矜持は示せるのか。「敵失」で得た議席を維持するのは容易ではない。
伸長したのは参政党と国民民主党の2党だ。それぞれ「日本人ファースト」や「手取りを増やす」といった明快なフレーズは無党派層にも刺さった。テレビや新聞はSNSが飛躍の原動力と指摘するが、それは誤りだと筆者は感じる。参政党は全国に政党支部を持ち、地方議員も150人ほど在籍している。国民民主党も代表の不倫問題や選挙直前の公認を巡るごたごたで勢いが陰ったかと囁かれたが、結果は議席を4倍以上に伸ばした。両党とも足元を固めつつある中で、SNSでの浸透がうまく進んでいると考えるべきだ。この熱気は一過性のものではないだろう。次の選挙でも躍進が見込まれる。
影が薄かったのは共産党と公明党だ。これまで組織票に頼ってきた両党には、支持層の高齢化の影響が直撃している。世代交代を目した若者への浸透も出遅れ感が否めず、このままでは今後もじわじわと議席を減らしかねない。党の立て直しが急務だ。共産党は志位氏が、公明党は山口氏が長期にわたり党首を務めたことで後継の育成ができなかったことも共通している。
日本維新の会、れいわ新選組も主役とはなれなかった。それぞれ改選議席よりも微増・維持に留まった。維新の会は自らが進める万博の実績や社会保険料に目を向けた負担軽減を提言したものの、有権者には響かなかったようだ。比例選の得票数は前回の参院選に比べると半減に近かった。筆者の考える理由は2つ。社会保険料軽減の訴えが、国民民主党の二番煎じ感を払拭できなかったこと、そして、維新の会が既成政党の一つと見られはじめたことだろう。かつての自民党と民主党に代わる第三極としての維新の会は姿を消してしまったといえないか。大阪での強さこそ盤石とも言えるものの、関西圏以外での地盤構築が当面の課題となるだろう。
れいわ新選組も各党が消費税減税を公約に掲げる中で、独自色が出せなかったのだろう。また、地方に議員がほとんどいないという点も議席が伸びなかった理由に挙げたい。地盤を持たないため、SNSのみの一本足打法にならざるを得ないからだ。今後の党勢拡大を考えるうえで、地方に地盤を築くことが必要になってくるのではないか。
秋の臨時国会では選挙戦で争われた給付か減税かを巡り、議論が交わされるだろう。積極財政派の台頭という選挙結果を受けて長期金利は徐々に上昇している。安易な政策の代償を国民に払わせることがないように、慎重で丁寧な議論を期待したい。
参考記事
なし