難病を抱えながら働くうえでは、病そのものにとどまらず、社会の制度や理解不足も大きな壁になります。今回は、自身も指定難病の当事者であり、支援者でもある京都難病支援NPOパッショーネ理事長の上野山裕久さんにお話を伺いました。
就職活動の壁と「経験不足」という課題
上野山さんは、自らの就職活動で難病を伝えたことで不採用になった経験から、9名の仲間と共にNPOを設立しました。難病患者が一般就労を目指す上での問題として、上野山さんは「経験の少なさ」を挙げています。
「難病患者にとって、朝9時から夕方6時までオフィスで働くのは非常に負担が大きいです。私自身も今の体調では厳しいと感じます。企業側にはリモートワークの導入など、柔軟な働き方を検討してほしいです」と語ります。
現状では、難病患者は経験を積む機会が限られているため就労が難しく、その結果として仕事が得られないという「負のスパイラル」に陥っていると言えるでしょう。企業には、難病患者が多様な働き方を通じて経験を重ねられる場を増やすことが求められます。
障害者手帳の有無による現実
また、上野山さんは障害者手帳の有無による待遇の違いについても言及されています。
「私は障害者手帳を持っていません。手帳があれば国からの補助金や、企業の雇用率算定対象になるため、正直なところ、持っている方が羨ましいと感じたこともあります」と語ります。
実際に、企業に義務付けられている障害者雇用の法定雇用率の条件には、障害者手帳の所持が明記されています。パッショーネ自体も行政からの補助金減少により、事業所の形態を雇用契約が必須のA型事業所から、雇用契約が無く、報酬を「工賃」として支払うB型事業所へと変更を余儀なくされた経緯があります。こうした現状に対し、上野山さんは「国に対して、どこまでが正当な要求で、どこからがわがままなのか、判断が難しい」と複雑な心情をのぞかせました。
「難病すごろく」に込められた想い
パッショーネでは、難病患者の「リアル」を社会に伝えるため、様々なユニークな取り組みを行っています。その一つが、京都光華大学のイベントで企画された「難病すごろく」です。
このすごろくの中身のほとんどは、上野山さんご自身の体験から作られているとのことです。ゲームは「発症前ステージ」から始まり、「通院」「入院」「リハビリ」を経て「再スタート」へと続きます。特に印象的なのは、最終の「再スタートステージ」に「パッショーネに就労相談へ」というコマがあることです。このNPOを利用して社会復帰していくリアルな過程を実感します。
このようにポジティブなコマがある一方で、就職支援を目指しつつも体調が悪化してしまいポイントが減るマス目があるなど、難病患者が直面する現実が鮮明に描かれています。デザインやイラストはパッショーネのメンバーが手掛けており、大阪万博にちなんだミャクミャクのイラストなど、時事ネタを取り入れる工夫も凝らされています。
誰もが活躍できる社会を目指して
今回の取材を通して、難病患者の一般就労が想像以上に厳しい現実にあることを改めて認識しました。この問題の解決には、制度的な課題を乗り越えることが不可欠です。多様な人々がそれぞれの能力を発揮できる社会を築くためには、私たち一人ひとりが患者の声に耳を傾け、現状を深く理解することが求められています。