追悼オジー・オズボーン ヘヴィメタルの誕生を辿る

7月22日、「ヘヴィメタルの帝王」とも呼ばれたミュージシャン、オジー・オズボーン氏が76歳でこの世を去りました。今月初め、故郷であるイギリス・バーミンガムでコンサートを開催したばかりで、その数週間後に伝えられた訃報は世界中の音楽ファンとミュージシャンに衝撃を与えました。古い洋楽が好きで彼の楽曲をよく聴いていた筆者にとっても、この知らせには大きな喪失感を覚えました。しかし同時に、亡くなる直前までステージに立ち続けた彼の姿には、ロックスターとしての生き様の美しさも感じました。

オズボーン氏は、1970年にデビューアルバムを発表したバンド「ブラック・サバス(Black Sabbath)」のフロントマンとして世界的に知られています。暗さや不気味さを感じさせるサウンドと独特の世界観を持つ彼らの楽曲は、それまでのロックとは一線を画し、ヘヴィメタルという新たな音楽ジャンルを確立したといわれています。オズボーン氏の特徴的な歌声と、ステージ上での奇抜で挑発的なパフォーマンスは、ブラック・サバスを世界的スターへと押し上げました。

ブラック・サバスは、1968年にバーミンガムで結成されたブルーズ・バンド「アース(EARTH)」として活動を開始しました。ある日、ベーシストのギーザー・バトラーが映画館の前を通りかかった際、『ブラック・サバス』というホラー映画を観るために並んでいる人々を目にし、「人は怖がるためにお金を払う」という現象に興味を持ちました。この体験から、幽霊や黒魔術といったテーマを音楽に取り入れるアイデアが生まれたといいます。さらにホラー小説家デニス・ウィートリーの作品に影響を受けたバトラーは、オズボーンと共に歌詞を作成し、ギタリストのトニー・アイオミは不協和音の一種である三全音(トライトーン)を用いた不吉な響きのギターフレーズを作り上げました。この「悪魔の音程」とも呼ばれる音の組み合わせを前面に押し出した楽曲「黒い安息日(Black Sabbath)」は、従来のロックにはなかった深い闇と恐怖感を放ち、バンドの方向性を決定づけるものとなりました。

この曲をはじめ、黒魔術や悪魔といったモチーフを取り入れた楽曲を次々と制作した彼らは、バンド名そのものを「ブラック・サバス」に変え、1970年にデビューアルバム『Black Sabbath』をリリースしました。その斬新で重厚なサウンドはイギリス国内だけでなく、アメリカや世界中で話題となり、音楽シーンに大きな影響を及ぼしました。

デビュー後もブラック・サバスは「Paranoid」「War Pigs」「Iron Man」といった代表曲を発表し、その後のロック・メタルシーンに計り知れない足跡を残しました。彼らに触発されたバンドは数え切れないほど存在し、メタリカ(Metallica)、ガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N’ Roses)、メガデス(Megadeth)といった名だたるグループもその流れの中で生まれました。

これらのバンドはブラック・サバスが築いた「重さ」と「暗さ」という基盤を引き継ぎつつ、サウンド、演奏技術、歌詞のテーマをさらに広げていきました。たとえば、アイアン・メイデン(Iron Maiden)はツインギターのハーモニーや独創的なベースラインを生み出し、他のメタルバンドも、より速いテンポや荒々しく歪ませたギターサウンド、そして高音域のボーカルを楽曲に取り入れていきました。また歌詞にはオカルトだけでなく歴史や文学、さらには戦争など社会的テーマを扱うものも増えていきました。

特に1970年代後半から1980年代前半にかけては、それまで人気を集めていたハードロックに代わり、ヘヴィメタルが台頭しました。この動きは「N.W.O.B.H.M(New Wave Of British Heavy Metal)」と呼ばれ、メタルというジャンルが確固たる地位を築くきっかけとなりました。

現在でも、ヘヴィメタルは世界中で愛され続けています。日本発のメタルダンス・ユニットBABYMETALが国際的な人気を博していることからも、その影響力の大きさがうかがえます。筆者も、少し気分が落ち込んでいるときに「Black Sabbath」をはじめとするヘヴィメタルの曲を聴くと、重厚なギターと力強いドラムの響きに引っ張られて、次第に気持ちが高まっていきます。

普段はJ-POPを聴いている人も、たまにはメタルを聴いて自分の内側にある鬱々とした感情を解き放ってみるのも良いかもしれません。

 

参考記事:

7月23日付 朝日新聞夕刊(東京4版)6面(社会・総合)「オジー・オズボーンさん死去 『ヘビーメタルの帝王』」

7月23日付 読売新聞夕刊(東京4版)10面「オジー・オズボーンさん死去 76歳 『メタルの帝王』」

日経電子版「オジー・オズボーンさん死去 『メタルの帝王』

 

参考資料:

オジー・オズボーン,クリス・エアーズ著,迫田はつみ訳(2010)『アイ・アム・オジー オジー・オズボーン自伝』シンコーミュージック・エンタテイメント

『マスター・オブ・ブラック・サバス』(2020)シンコーミュージック・エンタテイメント

エレクトリック・ギター編集部編(2011)『HR/HM バンド大全』ヤマハミュージックメディア

ワーナーミュージック・ジャパン Black Sabbath/ブラック・サバス

The Official Black Sabbath Website The History of Black Sabbath