大相撲の光と影を見た2ヶ月だ

今日13日から大相撲名古屋場所が始まる。今年に完成した新しいIGアリーナで15日間の日程で行われる。見どころはなんといっても、5月場所で2場所連続となる優勝を決め、見事横綱に昇進した大の里だろう。日本人横綱の誕生は稀勢の里(現:二所ノ関部屋)以来ということもあり、世間は大いに盛り上がった。

番付に横綱が2人並ぶのは、21年の秋場所(白鵬、照ノ富士)以来だ。ただ、この時は白鵬が全休だったため、横綱2人が初日の土俵に上がる例は20年の7月場所(白鵬、鶴竜)にまで遡る。実に5年もの間、1人横綱の時代が続いていた。

大の里は現在24歳。大の里に先んじて横綱になった豊昇龍は25歳で共にまだ若い。そんな2人がこれからの角界を背負うことへの期待の表れか、世間では早くも「大豊時代」の到来をはやす者も多い。

ただ、嬉しいニュースに湧く角界に暗い影を落とす出来事もあった。元横綱白鵬の退職である。優勝45回はあの大鵬をも上回る歴代1位。圧倒的存在だった元横綱が相撲協会を去ったことに、貴重な人材の流出を嘆いた相撲ファンも少なくないのではないだろうか。

退職に際しての会見では、弟子の暴力事件を端緒に、1年以上もの間部屋の再興を許されなかったことが理由だと語っている。だがそれだけではあるまい。現役時代の立ち居振る舞いは度々論議の的になったが、それを差し引いても大横綱であったことは間違いない。その逸材を冷遇し続けていればいずれこの結末は見えていたのではないだろうか。

白鵬は引退後、年寄間垣を襲名するにあたって協会から誓約書の提出を求められた。また、横綱の場合は一代親方を襲名することもできるが、白鵬にはそれが許されなかった。どちらも極めて異例だ。協会側が意図して白鵬に冷淡な態度をとり続けたのは明らかだろう。

この一連の騒動を社説に取り上げた全国紙は朝日と産経だ。いずれも、協会側にも非があるという見方を示している。朝日は「経緯も結果も不可解に見える」と断じたうえで、外国出身力士への偏見がなかったかを問いかける。また、外国出身親方が幹部の理事にゼロであることなどを例に、協会内部の透明化を求めた。産経は白鵬について「国技の伝統を軽んじた責任は軽くない。(退職について)残念だがやむを得ない」との立場を示したうえで、相撲協会に対しても平成以降の横綱の半分以上が協会を去ったことを異常と指摘し、協会のありようも禍根の一つではないかと問いかける。また、白鵬の資質に責任を押し付けて幕引きを図るべきではないとクギを刺した。

10年前と比べても相撲人気は高まり、15日間満員御礼が当たり前の光景となりつつある。一方で少子化の影響で力士の数は減少し続けている。相撲人気に水を刺すような内輪揉めを繰り返してはならない。

今後、白鵬は相撲を世界へ広げ、いずれはオリンピック競技にもなることを夢見て活動するそうだ。一白鵬ファンとして陰ながら応援したい。

=(敬称略)

参考紙面

6月5日 朝日新聞朝刊 社説 元白鵬の退職 相撲協会100年の課題

6月10日 産経新聞朝刊 主張 元横綱白鵬の退職 相撲協会にも問題がある

同日 読売新聞朝刊 スポーツ面 「相撲発展へ外から注力」 白鵬氏 協会退職理由を説明