外務省が携行を呼びかける「短波ラジオ」ってどんなもの?

外務省は今年6月、海外渡航に「短波ラジオ」を持っていくことを勧める呼びかけをホームページに掲載しました。争いが続く昨今の国際情勢を考慮したものとみられますが、短波放送にはあまりなじみがありません。いったい、どのような放送が行われているのでしょうか。

「短波」と呼ばれる帯域の電波を使います。3~30MHzの周波数を指し、ラジオ放送の他に船舶や航空機の通信、海外と交信するアマチュア無線などに使われています。AMラジオで使う「中波(300kHz~3MHz)」とFMラジオで使う「超短波(30~300Mhz)」の間の帯域になります。

この短波が注目される理由の1つに、電波が電離圏や地表に反射しながら遠くに飛ぶ性質があります。電離圏とは、地上から50kmより上空にある大気層のことで、その高度によってD層、E層、F層と名前がついています。それぞれの層で性質がことなりますが、電気伝導度が高い特性を持っています。

情報通信研究機構などが開発した短波帯電波伝搬シミュレーター「HF-START」や、電離圏の観測データを公開するサイト「NICTイオノゾンデ電離圏観測」などで、電波の伝搬を再現したり、日々変化する電離圏が実際にどの位置に存在するかを確認したりすることができます。

FMラジオは、この電離圏を通過してしまうため反射を活かした送信ができません。FM送信所が全国各地にあるのはこのためで、ラジオを聞く人は直接電波を受信する必要があるからです。一方、AMラジオは電離層で反射するものの、反射する層によっては大きく減衰してしまうため、短波ラジオほど安定して遠くに飛ばすことができないと言われています。

現在日本にあるラジオの放送局は、総務省の各地域にある総合通信局のウェブサイトで確認することができます。筆者が住む関東で受信できる短波ラジオは「日経ラジオ社」の一社のみ。国内向けには競馬中継がメインで、あまりニュースはないように感じます。

しかし、国際放送に目を向けると事情は異なります。NHKの国際放送は放送法が定める必須業務として位置づけられ、邦人向け、外国人向けに分けた国際放送を、短波放送などを通じて流しています。NHKのウェブサイトを確認すると、放送時間は限られていますが、日本語による放送がアフリカや南米などでも受信できることが分かります。日本からの発信基地は、茨城県古賀市にある八俣送信所。総務省の資料を見ると、アフリカ向けはフランスの中継所から送信されていますが、南米に向けては八俣送信所が直接電波を送っていることが分かります。

第二次世界大戦中、日本国内では短波ラジオの受信が禁止されたほど、海外の情報を伝える手段として注目されていました。現在はインターネットを通じて様々な情報が入手できますが、特定のウェブサイトへのアクセスが制限されていたり、通信環境が不安定だったりする地域があります。その点、短波ラジオは放送局が発した電波を直接受信できる大きなメリットがあります。

短波ラジオの受信機は、安いものだと2千円程度で購入することができます。少しかさばりますが、筆者も海外旅行に行くときには、もしもの時に備えて持って行こうと思います。

海外旅行に行った際の台湾の街並み(2024年8月28日、筆者撮影)

 

参考資料

外務省 海外安全ホームページ 「短波ラジオ」の準備をお勧めします

https://www.anzen.mofa.go.jp/c_info/oshirase_tanpa.html

名古屋大学宇宙地球環境研究所 電波50のなぜ

https://www.isee.nagoya-u.ac.jp/50naze/denpa/36.html

関東総合通信局 ラジオ放送事業者一覧

https://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/bc/radio/list/index.html

総務省 公共放送ワーキンググループ 国際放送等の現状

https://www.soumu.go.jp/main_content/000945830.pdf

NHK 放送文化研究所 放送メディア研究17

https://www.nhk.or.jp/bunken/book/media/17.html