「今日プールあって疲れた~」。6月も後半になり、アルバイト先の塾に通う小学生からはこんな言葉が飛び出るようになりました。前後の冷たいシャワーを「地獄のシャワー」というそうで、筆者が小学生の時と呼び名が変わらないなとほほえましく思います。
そんな学校の水泳授業ですが、近年実技の廃止が相次いでいます。日本経済新聞によると、岩手県滝沢市ではすべての市立中学で水泳の実技指導を取りやめました。プールの老朽化や、教員への負担軽減、熱中症の予防が理由だそうです。他にも、静岡県沼津市や愛知県大府市でも実技授業の廃止が進んでいます。このような学校では、水泳については座学のみが行われているといいます。
水泳の授業には課題が多くあります。最も大きなリスクがプールでの事故です。昨年、高知県で小学4年生の児童が亡くなる事故がありました。読売新聞によれば、事故の報告書では水深が深かったことや注意が必要な児童の居場所を把握していなかったことなどが原因として指摘されました。
近年の暑さで熱中症のリスクが高まりプールに入れないことがあったり、児童や生徒から肌の露出を控えたいという声が出たりもするそうです。全国的に1970年代~80年代に作られたプールは改修が必要になっています。少子化や教員の負担を考えても、これまでと全く同じように水泳授業を続けることはできないのでしょう。
しかし、海や川での水難事故を防止するためには、実際に泳ぐ体験は極めて重要です。実技を廃止する代わりに、スイミングスクールなどの民間事業者へ授業を委託する取り組みが始まっています。
京都市では今年度、市立小・中の9校で試行しています。京都市によれば、教員とインストラクターが授業にあたり、プール監視には委託先の職員があたるといいます。インストラクターは水泳指導に慣れているため、より分かりやすい効果的な指導が期待できそうですし、プール監視での教員の負担も減りそうです。他にも、着衣水泳など、より実践的な授業の充実も期待でき、良い試みだと感じました。
水泳授業は、1955年に高松市沖で修学旅行の小中学生ら168人が亡くなった紫雲丸沈没事故をきっかけに全国に広まりました。教育環境が大きく変わった現在は、水泳学習を見直す転換期にあります。安全な授業を継続するには、民間のノウハウの活用や教員の研修などが不可欠です。私たち大人も、これからのレジャーシーズンでは水難事故に注意が必要です。命を守るために水泳授業がどうあるべきか、他人事でなくみんなが考えることで、議論が進むことを期待します。
参考記事
6月18日付 日経電子版 「水泳授業が座学に? 公立中で実技廃止相次ぐ、猛暑やプール老朽化」
3月31日付 読売新聞オンライン「プール小4死亡事故、「最も重大な原因」は児童の居場所把握しなかったことと第三者委指摘」
4月19日付 読売新聞朝刊「社説 水泳授業の廃止 存続への工夫が先ではないか」
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