マイノリティの声を届けるニューメディア

ウトロ地区の歴史と現在

京都府宇治市にあるウトロ地区は、かつて在日コリアンの集落として知られていました。この地域は戦時中、軍事施設として使用されていた経緯から、住民たちは土地の所有権を持たず、立ち退きを迫られるなどの困難を経験してきました。しかし、日本人住民や韓国政府などの支援を受けて土地の一部を購入することができ、現在ではその歴史を後世に伝えるために「ウトロ平和祈念館」が建設されています。

 

若者との連携と広報活動

6月6日、筆者は祈念館を訪れ、副館長の金秀煥(キム・スファン)さんにお話を伺いました。民営の施設のため、開館当初は「うまく運営できるのか」という不安もあったといいます。しかし、年間2000人の来館を目標にしていたところ、初年度には1万3000人もの来館者があったそうです。

特に宗教団体や企業の関係者が多く訪れ、「分断や対立を乗り越える」という祈念館の理念に共感が広がったといいます。また、立命館宇治高等学校と連携して映画を制作するなど、若者たちと協力しながら、ウトロの記憶を広く社会に発信する取り組みも続けられています。

ただ、持続的な運営のためにはさらなる来館者の確保が欠かせません。祈念館では公式ウェブサイトの開設やSNSを通じた広報にも力を入れています。近年では、メディアをきっかけに祈念館の存在を知り、実際に訪れる人も増えてきているそうです。

ウトロ平和祈念館にて金秀煥副館長に取材をしている(6月6日祈念館スタッフ撮影)

バズフィードが果たす役割

金さんが特に印象に残ったと語るのが、ネットメディア「バズフィード」の取材です。従来のメディアは、ヘイトスピーチや差別に関する報道に慎重で、在日コリアンをはじめとするマイノリティの実情が十分に伝えられていないと感じていたそうです。その点、バズフィードは当事者の声や状況を率直に取り上げてくれたと評価していました。

実際にバズフィードが2022年6月27日に公開した記事『「ヤフコメ民をヒートアップさせたかった」在日コリアンを狙った22歳。ウトロ放火事件“ヘイトクライム”の動機』では、Yahoo!ニュースのコメント欄、いわゆる「ヤフコメ」で差別的なコメントが高評価を得ている実態が取り上げられています。また、ウトロ放火事件の被告は取材に対し、「左派」系の報道機関は「朝鮮半島寄りの偏った報道をしている」と発言していたといいます。

このように、差別がどのように表れているのかを具体的に報じるネットメディアは、マイノリティの置かれた現状を知る上で、貴重な情報源となっています。

バズフィードは2006年にアメリカで設立されたウェブメディアで、日本版は15年にスタート。朝日新聞社、朝日放送グループホールディングス、バリューコマースが出資しています。広告収入によって無料で記事が読める仕組みとなっており、日本版では社会的マイノリティの声を積極的に取り上げ、他の大手メディアでは報じられにくいテーマにも光を当てています。

 

メディアの課題と今後

一方で、アメリカ本社では収益難からニュース部門が閉鎖されるなど、ビジネスモデルの転換に迫られています。ウェブメディアには、既存の報道の枠にとらわれず情報を発信できる自由さがある反面、信頼性や知名度の面での課題も残っています。

新聞社の収益が減少している今、ニューメディアとの連携や新しい報道スタイルの模索、さらに持続可能な収益構造の構築が、メディア全体にとって重要なテーマとなっているのではないでしょうか。

 

【2025年6月15日付の『歴史を越え、未来へ繋ぐ希望の地区』(後久胡太朗記者)とあわせてお読みいただくことで、ウトロについてより深く理解いただけます】

 

 

<参考記事>

朝日新聞デジタル、2023年7月7日付、「(Media Times)ニュースサイト苦境 米バズフィード、報道部門閉鎖」

BuzzFeed、2022年6月27日付、「「ヤフコメ民をヒートアップさせたかった」在日コリアンを狙った22歳。ウトロ放火事件“ヘイトクライム”の動機」

 

 

<参考文献>

BuzzFeed Janan Corporation、「会社概要」、https://www.buzzfeed.com/about?edition=ja