日本国内で米の価格が高騰し、手頃な価格帯の銘柄も、いつの間にか高級ブランド米と変わらない値段になってしまいました。そのような中、政府は備蓄米の放出を始め、買い求める人々の姿が連日報道されています。
筆者は、食べること、お菓子や食事を作ることが好きで、スーパーマーケットによく足を運びますが、いまだ政府備蓄米を見たことがありません。オンラインショッピングのサイトを覗いてみても、一瞬にして売り切れてしまい、購入することは叶いません。
まず、米政策の歴史について振り返ります。かつて、日本では減反政策が全国で実施されていました。国は、2018年に都道府県ごとの生産目標量を示すのをとりやめ、農家や農業法人は自由に米を作れるようになりました。しかし、今でも農林水産省は毎年、需要予測に基づく生産量の目安を示し、麦や大豆などの転作に協力する農家に補助金を出しています。事実上の減反は続いているのです。
食生活の変化は米の減産に拍車をかけました。パンや麺類の消費が伸びるとともに、米の需要は落ち込みました。そのためか、かつて田んぼだったところでは、土地を業者に貸し、麦を栽培している例もありました。
今年になって、それが様変わりしました。日本食を好む人が多くなったのに加え、訪日外国人の急増により、外食産業からの買い付けが増えたことも米不足の一因と考えられます。コメの価格は過去最高値を更新し続け(政府備蓄米を除く)、近年稀に見る「米騒動」へと発展しています。
筆者は、小さい頃から米作りに縁がありました。新潟県の酒造メーカー2社のそれぞれの田んぼで田植えを経験(小学1年時)。神奈川県横浜市の舞岡公園にて、体験稲刈り(小学1年時)、年間を通して昔ながらの米作りを市民である指導員さんより教わりました(小学2年、小学5年時)。
舞岡公園とは
耕作放棄地だった一帯を住宅開発から守り、その自然を後世に残すことを目的として、行政と市民の連携・協働により誕生。横浜市と認定NPO法人舞岡・やとひと未来により管理され、田畑・雑木林・多様な生き物が住む谷戸の原風景を維持保全するため、市民とともに田んぼを守る取り組みを続けている。
そして、親戚である愛知県岡崎市の米農家、渡邉弘さんが栽培する美味しい米を幼い頃から食べて育ちました。以上の理由から稲作に関心を持っています。ここからは、渡邉さんのお話しをもとに、米農家が直面している課題について考えます。
渡邉さんによると、「昨年は、気温が高かったため、生育が悪かった。通常1反(約990㎡)につき9俵(1俵=約60kg)収穫できるところ、昨年は7俵だった。その上、苗の価格も上昇を続けている。一昨年700円だったのが、昨年750円、今年990円と、わずか3年間の間に40%以上値上がりしている」。
渡邉さんの田んぼでは、「草刈りは月に1回、収穫までで計4回。日中は暑いため、朝4時に草刈りを始める。田んぼの水位を定期的に見続けるために早朝4時に田んぼに出向くこともある」といいます。また、稲作を時給換算するとわずか10円程度にしかならないとテレビの報道で聞いたことがあります。
(2025年4月28日愛知県岡崎市にて筆者撮影)
専業農家では膨大な敷地で稲作をしたり、他の作物を作ったりしなければ生計を立てられないという現実があります。また、水田は一度耕作をやめると荒れてしまい、すぐに再生させることはできません。初心者がいきなり米を作ろうとしても、長年の経験が必要なため、簡単に作れるものではありません。
米農家はビジネスとして成立しにくい構造です。手間と労力の割に利益が出ない構造であることが分かりました。企業努力ならぬ農家努力では、値下げを実現することはできません。果たして、これまでのお米の価格が適正だったといえるのでしょうか。
田植えをする渡邉弘さん
(2025年4月28日愛知県岡崎市にて筆者撮影)
次回【後編】は田植えの様子についてお伝えします。
参考記事
2025年3月20日 日経電子版、「減反政策とは 国がコメの生産抑制」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA195OP0Z10C25A3000000/
参考資料
明治学院大学、「横浜市における公園管理」https://meigaku.repo.nii.ac.jp/record/3395/files/kokusai_57_69-82.pdf