「懲らしめ」から「立ち直り」へ 新たな刑罰、拘禁刑の導入から考えること

懲役と禁錮を廃止し、拘禁刑に一本化する改正刑法が6月1日に施行されました。1907(明治40)年の刑法制定以来、新たな種類の刑罰が導入されるのは初めてです。

拘禁刑は、受刑者を刑事施設に拘置した上で、「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、必要な指導を行うことができる」と規定され、刑務作業が義務ではなくなります。24の処遇課程を用意し、犯罪の種類や年齢などに加え、再犯リスクと更生への意欲で受刑者を振り分け、個々の事情に合った処遇をめざしています。

一方、これまでの懲役と禁錮は廃止されます。刑務作業が義務付けられるか否かで異なりますが、いずれも自由を奪うことで懲罰を与えることが主目的とされてきました。

今回の改正刑法では、罪を犯した人を「懲らしめる」のではなく「立ち直らせる」ことを目指していると言われています。先日、大学の講義で『未来への提言 犯罪学者ニルス・クリスティ〜囚人にやさしい国からの報告』(NHK)という特集番組を観ました。ノルウェーのオスロ刑務所では、受刑者はどのような生活を送っているのかに密着したものです。

本人が望めば大学レベルの教育が受けられ、炊事など自分のことは基本的に自分でやる様子が紹介されています。

筆者が一番驚いたのは、受刑者にも年に数日間の休暇があり、外出することもできるということです。これは家族や社会とのつながりを途絶えさせないために必要なことだと言われていました。休暇を経て刑務所に帰ってこなかった人は1人もいないそうです。

罰を重くし、受刑者を縛り付けるのではなく、他の人と協働して生活を送ることでルールを守ることの大切さを体得できます。オスロ刑務所で何よりも大切にされていたのは、受刑者が社会に戻れるようにすることでした。

番組を視聴した後の講義で、ノルウェーでは犯罪の背景に「3つの不足」があると考えられていることを知りました。1つ目は幼年期の愛情不足、2つ目は成長期の教育不足、3つ目は現在の貧困です。罪を犯した人々はこれまで苦しんできた。これ以上苦しみを与えるのではなく、不足しているものを与えようという考え方をオスロ刑務所の事例は教えています。

拘禁刑は6月1日以降に起きた事件や事故に適用されます。裁判で拘禁刑を言い渡され、有罪が確定した受刑者が入所するのは、今秋以降となる見通しです。拘禁刑への刑法改正を受け、受刑者の意識や生活がどのように変化していくのか注目していきたいものです。

参考記事

2日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)1面 「拘禁刑を導入 刑罰転換」

参考資料

朝日新聞デジタル 「刑務所で見えていなかったこと 『厚生を信じる』法務省が掲げるまで」https://digital.asahi.com/articles/AST6742SVT67UTIL011M.html?iref=pc_ss_date_article

日経新聞電子版 「[社説]拘禁刑で『立ち直り』を着実に」https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK047IN0U5A600C2000000/

読売新聞オンライン 「懲役と禁錮は廃止、『拘禁刑』に一本化…刑務作業が義務ではなくなる改正刑法施行」https://www.yomiuri.co.jp/national/20250531-OYT1T50190/