先鋭化する対立 「熟議」は私たちにも問われている

 

2024年は世界的な選挙イヤーであったと同時に、分断が先鋭化した年でもあったと言える。

特にSNSを用いた戦略が確立されたことが大きいだろう。情報の質よりも人々の注目に重きを置いた、アテンションエコノミーに支配された情報発信。加えて、自分が見たこと、考えたことと同じような情報を優先して表示するSNSのアルゴリズム。これらの複合的な要因が合わさったことで威力を発揮するようになった。

アテンションエコノミーによって、注目されやすい過激な発言や、根拠のないデマ、誹謗中傷ほど多く拡散された。逆に正確さに優れ、質のいい発信は埋もれていった。情報の奔流にファクトチェックが追いつかず、「言った者勝ち」のような状況が醸成され、世界で分断を助長した。

世界が注目した11月の米大統領選では、両陣営が互いに非難を繰り返す様子が度々報じられた。危機感を煽る語り口、対立候補を徹底的に非難する手法は全米に深い対立の禍根を残した。トランプ大統領は就任式で、バイデン前大統領をこき下ろし、自らを賛美するような発言を繰り返した。翌月の施策方針演説でも自らの実績をアピールする発言に終止した。そこに、米国の深い亀裂を修復しようとする気概は感じられない。

24年12月には、隣国韓国でも分断を象徴させる出来事があった。当時の尹大統領は、突如戒厳令を宣布し、国内外に混乱をもたらした。その背景についてはさまざまな憶測が飛び交っているが、尹氏本人がネットの言説に流されたことに加え、数の力を背景にした野党による弾劾の連発に痺れを切らしたとされている。戒厳令は数時間で解除されたが、尹氏は弾劾され、後に憲法裁により罷免が確定した。憲法裁の判決が出た後も、双方がデモを続け、分断が修復の兆しを見せることはない。今月行われた大統領選においても、テレビ討論会は中傷合戦の様相を呈し、地元の有力紙中央日報が社説で苦言を呈した。李新大統領は対立を修復するというが、容易ではあるまい。

欧州では極右政党の台頭が目立った。今年のドイツ総選挙では、排外的な主張が目立つドイツのための選択肢(AfD)が第2党へと躍進した。ナチスの暗い歴史を持つドイツでの極右政党の躍進は、驚きをもって報じられた。

さて、日本はどうか。政治とカネの問題を抱える与党は過半数割れへと追い込まれている。長らく続いた自公1強とも言える政治体制が終わり、約30年ぶりの宙吊り国会へと様相を変えた。選挙後の臨時国会の開幕に合わせ、石破首相はこんな発言をした。

「熟議の国会を期す」

熟議とは、十分によく議論をすることである。

タイパ(タイムパフォーマンス)や、コスパ(コストパフォーマンス)はすっかり世の中に定着し、善悪二元論で物事を見ることが多くなった。そしてSNSでは感情論や決めつけ、陰謀論が横行する。そんな現代に投げかけられた熟議の二文字。分断を防ぐために近道はなく、時間をかけて話し合い、地道に歩を進めるしかない。

敢えて立ち止まるのはなぜか。あえて時間をかけるのはなぜか。大きな国政選挙が控える中で熟議は今、私達にも問われている。

参考

アテンションエコノミー:総務省

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r05/html/nd123110.html

大統領選

読売新聞

2024.10.31(木)東京朝刊外A7頁

米大統領選 トランプ氏支持者を「ゴミ」 バイデン氏 非難合戦激化

読売新聞

2025.1.22(水)東京朝刊朝特G8頁

トランプ米大統領 就任演説全文の和訳

読売新聞

2025.3.6(木)東京朝刊外B8頁

トランプ米大統領 施政方針演説の要旨

2025.5.28(水) 中央日報

【社説】韓国大統領選挙テレビ討論、今のままの形ではだめだ https://s.japanese.joins.com/JArticle/334317?servcode=100&sectcode=11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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