またも大統領を当てた忠清道  「中道」と呼ばれる理由を探る

2025年6月4日、大韓民国において大統領選挙が行われ、「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)氏が当選しました。韓国国内では、地域ごとに支持する政党が大きく分かれる傾向があり、今回の選挙でもその構図が改めて浮き彫りとなりました。

たとえば、南西部の全羅道(チョンラド)では進歩(革新)系の政党が、南東部の慶尚道(キョンサンド)では保守系の政党が強い支持を得る傾向があります。この背景には、1980年に全羅道で起きた「5・18民主化運動(光州事件)」における軍部による市民弾圧や、軍政時代に慶尚道へ重化学工業が誘致されたことなど、歴史的・経済的要因が関係しているとされています。

そのようななか、忠清道(チュンチョンド)地域は韓国国内で「中道」とされる数少ない地域のひとつです。忠清道では特定の政党への固定的な支持が見られず、その動向が大統領選の行方を左右すると言われております。実際、「忠清道を制する者が大統領を制す」との言葉もあるほどで、1987年の民主化以降に行われた8回の大統領選挙すべてにおいて、当選者が忠清道でも最多得票を得ています。

今回の選挙でも、李在明氏は忠清北道(チュンチョンブクド)で47.47%、忠清南道(チュンチョンナムド)で47.68%の得票率を記録し、いずれも1位となりました。

筆者はこの忠清道の出身であり、第2の都市とも言われる清州市(チョンジュシ)で小学校から高校までを過ごしました。地域の中では政治的な話題を積極的に取り上げる場面はあまり多くなく、むしろ意見の対立や葛藤を避けようとする雰囲気があったように感じています。

<読売新聞オンライン4月20日付「[韓国大統領選2025]李氏、圧勝発進…「共に民主党」予備選」>

また、忠清道の方々は、「本音をすぐに表に出さない」「争いを避ける」といった気質があるとよく言われます。このような特性が、政治的にも一方向に流されず、慎重に判断する中道的な傾向を形成しているのかもしれません。

また、地理的には首都圏との距離が近く、交通インフラが整っていることから、経済的にも安定しています。軍政期にも特段の恩恵や不利益を受けたわけではありません。損も得もなかった地域といえます。

それゆえに、忠清道では一人ひとりがより冷静に政策を見極め、時の流れや目先の感情に左右されずに投票行動を取る傾向があると考えられます。

分断が進む近年の韓国政治において、忠清道のような「スイングステート(無党派地域)」の存在は、民主主義における貴重なバランサーであると言えるのではないでしょうか。

 

 

<参考記事>

読売新聞オンライン4月20日付「[韓国大統領選2025]李氏、圧勝発進…「共に民主党」予備選」

読売新聞5月27日付朝刊「韓国大統領選 与野党 忠清道に注力 「勝てば当選」 支持率僅差 支持固め」

 

<参考文献>

NAVER, 「第21代大統領選挙」https://news.naver.com/election/president2025(閲覧日2025年6月4日)