「琵琶湖の水止めたろか」という言葉は、滋賀の人が京都の人に放つ冗談として有名です。京都市の水道水の９９％に琵琶湖の水が使われていて、湖水は京都の人々の生活に欠かせないものです。

琵琶湖疏水は、明治時代に作られ、今も現役の運河です。滋賀県の琵琶湖から隣の京都市まで、水を流しています。京都市出身の私は小学生のとき社会科で疏水の歴史を学び、社会科見学で実際の建造物を見学しました。そんな身近な文化財が、国宝に指定されることになりました。

歴史は１４０年以上前にさかのぼります。明治時代、東京への実質的な遷都が行われたことで京都は活気をなくしていました。そこで第３代京都府知事の北垣国道は、疏水を通し、上水道の水源とするだけでなく水運を担わせることを計画しました。若い技術者の田邉朔郎が工事を担当し、日本で初めて竪坑（たてこう）を用いたトンネル工事も行われ、第一疏水は１８９０年に完成しました。その後、京都ではこの水を使って日本初の事業用水力発電所がつくられました。この電力を使った日本初の電気鉄道である路面電車が開業するなど、疏水は京都の近代化に大きく貢献したといえます。

朝日新聞によれば、今回国宝に指定される施設は５つで、３つの隧道（ずいどう・トンネル）、京都市左京区蹴上にあるインクライン（台車に船を乗せ運ぶケーブルカー）、南禅寺の境内にある水路閣です。明治以降の土木構造物が国宝となるのは初めてだといいます。

私は京都市左京区蹴上の南禅寺にある水路閣を訪ねました。レンガでできているアーチ状の水道橋です。南禅寺には多くの観光客が訪れており、水路閣でも写真を撮る人が列を作っていました。インスタグラムでは「映えスポット」として紹介されていて、アーチの中央に入って写真を撮ることが流行しているようでした。また、朝日新聞によれば、京都を舞台にした刑事ドラマなどでよく登場する場所でもあるそうです。

水路閣（２０２５年５月２９日筆者撮影）

上から見た水路閣（２０２５年５月２９日筆者撮影）

近年、京都と滋賀を結ぶ船運「びわ湖疏水船」が復活し、観光面でも注目を集めています。インクラインは桜の名所で、毎年多くの観光客が訪れる人気スポットです。蹴上は京都の中心地からは少し離れますが、バスや地下鉄を使えば３０分ほどで行くことができます。南禅寺や永観堂は紅葉の名所で、銀閣寺も近くにあります。このように立地の良い環境にある疏水の遺産は、国宝指定をきっかけにさらに観光資源として活用されるようになるでしょう。明治の人々の気概に触れられる疏水の建造物を、訪れてみてはいかがでしょうか。

参考記事

１６日付　日経電子版　「琵琶湖疏水施設を国宝指定へ　明治以降の土木構造物で初、文化審答申」

１７日付　朝日新聞朝刊　地方面「近代化導いた運河　国宝へ喜び」

参考文献

日本遺産　琵琶湖疏水ホームページ

びわ湖疏水船ホームページ