広く長期的な視野でみる「少子高齢化」

「少子高齢化」は、現代社会にとって非常に大きな問題です。厚生労働省によると、2023年度に生まれた子どもの数は、約72万人で、その前年に比べ、約4万人減少しています。こういった少子化を促進させている要因の一つとして、金銭的な側面が挙げられます。定期検診、出産費用、それらに加え、おむつやミルクといった日常的な費用もかかります。また、保育施設やベビーシッターの利用でもかなりの負担が生じてきます。

 

しかし、5月10日付の朝日新聞朝刊では、実質賃金は3ヶ月連続のマイナスであると報じました。賃金の額は上昇傾向ではあるものの、昨今の物価高騰分を賄えるほどではないということでしょう。このような現状では、子どもを持ち、育てるというのはとても難しいことに思えます。しかし、この現状を改善しなければ、少子化に歯止めを掛けることはできません。

 

そんな状況を改善への取り組みとして、地方自治体による不妊治療への助成が行進んでいます。5月8日付の読売新聞朝刊では、子どもの1割以上が体外受精による誕生であり、自治体の7割が支援策を実施していると報じました。また、22年4月以降、治療の一部に公的医療保険が適用され、自己負担額は3割となりました。その上で、自治体の助成が行われますが、先進医療や年齢などの要件を超えた場合、自己負担額は増大します。こういった点に関してはまだまだ改善の余地はありそうです。

また、諸外国における染色体の異常を調べるといった先進医療の実施率は日本よりはるかに高くなっています。こういった医療の普及には、世間の認識を変える事も同時に変わらなければならないでしょう。

 

そして、高齢化への対策も様々な局面で必要とされています。以前から課題となっている、介護者の確保や年金などに加えて、「家」の問題を考えなければなりません。5月10日付の読売新聞では、老朽化した分譲マンションを取り上げました。老朽マンションの居住者には高齢者が多く、その再生は難航しているそうです。空き家になった後の所有者が不明だったり、外国人による所有になっていたりすることなどが背景にあります。リノベーションや建て替えのためには、居住者の同意が欠かせませんが、先のような状況では、十分な賛成を得ることは難しくなります。

また、多額の費用がかかることもマンション再生事業を阻んでいます。しかし、老朽化した建物は崩壊の危険性をはらんでいることを忘れてはいけません。昨今、度々見られる水道管破裂の問題のように事が起これば、地域社会への多大な影響は避けられません。

 

従来から議論されていた少子高齢化の課題に加え、それらから派生したさらなる難問が突きつけられています。少子化においては、費用面への積極的な支援と現代の働き方に応じた子育て支援のサービス拡充が重要となってくるでしょう。そして、高齢化については、「人」「家庭」だけでなく、住宅など「都市機能」の高齢化へも目を向けなければなりません。現に、ニュータウンとして出発した街の多くでこういった高齢化が進行しつつあります。そういった「二つの高齢化」が同時に進行すれば、解決はより一層難しくなります。

 

様々な社会状況に対して、広くかつ長期的な視野で少子高齢化問題を捉え直していかなければなりません。新しい考え方を受け容れられるような、柔軟な姿勢と多様な議論の場が必要となってくるでしょう。

 

参考記事

5月8日付 読売新聞  朝刊 (大阪13版)1面 「不妊治療 自治体7割が助成」

5月10日付 読売新聞 朝刊 (大阪13版) 14面 解説「老いるマンション 再生後押し」

5月10日付 朝日新聞 朝刊 (大阪13版) 6面 「実質賃金 3月2.1%減」

参考資料

厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai23/dl/kekka.pdf