NPBによる動画配信に関する規程はプロ野球を衰退させかねない。強く反対する。
2月1日、NPBは新たに「写真・動画の撮影及び配信に関する規程」を施行した。その目的として、NPBは「本規程は、主催者が有する権利及び法益を適正に保護しながら、プロ野球の普及発展と球場観戦の価値向上を図るため、試合の観戦における写真・動画等の適切な撮影、及び写真・動画等の配信・送信方法等についてのルールを示すものです」としている。
規程では、試合中の選手を撮影したものなどの共有が著しく制限される。試合中の動画では、140秒を超えるものは一律で共有が禁止される。140秒以内であってもプレーヤーを映したものも認められない。
プロ野球とは興行である。試合に足を運べないファンもいる中、そうした球場の雰囲気、生の反応を断片的にでも体感できる動画という媒体は、これまでの野球人気を少なからず支えてきたはずだ。しかしながら、本来プロ野球を盛り上げるべきNPBがどうしてこのような姿勢をとるのか、全く残念でならない。確かに、著作権や第三者のプライバシー保護のためのルールは必要だろう。しかし、今回の方針は行き過ぎという他ない。野球人気を支えているファンに対する背信であり、断じて容認できない。
SNSではNPBに対する非難の声が続出している。ファンの声を届けようと、署名活動を始めたアカウントも存在する。こうした意見に耳を傾け、ルールの緩和・廃止を検討するべきだろう。どうしてここまでの非難を受けるに至ったか。いくつか理由を挙げる。
全く足りない下準備
そもそも、こうした施策を行う下地が全く整っていないと言える。動画共有は現在、ネット配信サービスDAZNによる切り抜きなど、わずかな民間業者に頼っているのが現状だ。NPBの発信といえば、試合結果と予告先発、出場登録選手くらいだ。
一方で野球が盛んな本場アメリカのMLB公式アカウントを見れば、動画の切り抜きは当たり前で、選手単独インタビューや、データなども詳らかに公開している。直近では、スーパープレイをショートアニメにするなど、ファンを楽しませることに余念がない。
発信でのこうした工夫もなしに、一方的に窓を閉ざすようなやり方では理解は得られない。最低限、禁止するなら代替のコンテンツを用意するのが筋ではないか。
十全に果たされない説明責任
本来ルールを策定する際は幅広く意見を聞くべきだ。しかし、NPBはそれを怠っていると言わざるを得ない。ルールがどのようにして改訂に至ったのか、誰が提起したのかなどについては一切公開されておらず、ブラックボックスのままだ。また、ファンからパブリックコメントを募るような手続きを経ずに実施するのは、ファンとNPB側の温度差を測らないままの見切り発車というほかない。再検討や対案を考えようとする姿勢が見られない。総じてファンとの間のコミュニケーションが不足しており、説明責任が不足しているとの謗りは免れない。
ルールの恣意的な運用
この規程には3条4項に例外規定が設けられている。主催者(この場合は試合を主催する球団)が承認した場合はこの限りではないというものだ。この主催者側の例外規程を使ったのが日本ハムだ。これまで同球団はエンタメを好む新庄監督のもと、キツネダンスなど、ファンを楽しませる施策を数多く採ってきた。規程が導入されてからもライブ配信に準ずる行為でない限り、共有を許容していた。しかし、NPBはこれを問題視し、改善勧告を行ったという。最終的に日本ハム側が勧告を受け入れる形となったが、ファンのNPBへの不信は更に高まった。自らが作った例外規定を度外視したような運用に批判が集まるのは当然だ。こうした恣意的な運用も、NPBへの信頼を貶めている要因に他ならないのではないか。
過去の手法の繰り返し
こうしたことは今に始まったわけでは無い。例えば、24年からは試合時間短縮という名目のもと、選手登場曲は10秒までというルールが導入された。当時も反対意見が続出していたが、今に至るまで改正には至っていない。
また、FAの問題でも対策が不十分との声が上がる。渡米した選手が僅かな期間で帰ってくる際に、同一リーグの他球団へと渡る事例が物議を醸した。「有原式」「上沢式」と揶揄され、対策を求める声も数多く上がる。
そうした声に耳を傾けるようなこともせず、殿様商売を続けるようでは日本での野球人気は衰退の一途を辿りかねない。市場規模の違いからメジャーへと流れる選手が増えるなか、国内での人気をどう保つかは喫緊の課題である。広報や企画は人を惹きつける第一歩だ。野球人口が年々減少する中で、そうした議論は避けて通れない。その上で、より透明化された意思決定や、ファンの声が届きやすくなるシステムを構築してはいかがか。NPBの「復権」にはそうした改革が不可欠だろう。
参考資料
NPB 写真・動画の撮影及び配信に関する規程について
https://npb.jp/npb/satsuei_haisin_kitei.html
Twitter @Aomiso97 署名活動をする個人アカウント
https://x.com/Aomiso97/status/1909194090543296769?t=pBPBJd3aZpryZu5PIciP3g&s=19
同 @npb 公式アカウント
https://x.com/npb?t=pDnEsXsQiwGRglnNwlmTWw&s=09
同 @MLB 公式アカウント
https://x.com/MLB?t=5Kjd_qkXOrtMXugTwOpiPA&s=09
同 @MLBStats データ分析アカウント
https://x.com/MLBStats?t=rKEvJd115lNMLksjeihVbA&s=09
参考紙面
4月1日付 読売新聞 朝刊スポーツ面23頁 日本ハムに改善勧告
4月8日付 読売新聞 朝刊スポーツ面15頁 日本ハムが改善勧告受け入れ