小説を読まないあなたへ 2025年本屋大賞受賞作品を読んでみた

「カフネ、本屋大賞受賞」。書店の前を横切ると、こんな大きなポップが目に入ってきました。店内の特設コーナーが一際目立ちます。4月9日、全国の書店員が一番売りたい本を投票で選ぶ第22回本屋大賞が発表され、受賞作品は、阿部暁子さん(39)の「カフネ」(講談社)に決まりました。

 

カフネ

ポルトガル語で、愛する人の髪にそっと指を通す仕草を表す。

(「カフネ」(講談社)作中より)

 

題名に用いられている「カフネ」という言葉にはなんともロマンチックな意味合いがありますが、日本語では直訳できる言葉がないようです。そんな「カフネ」が2025年の本屋大賞に選ばれたのです。

 

毎年、話題になる本屋大賞。ですが、筆者自身、小説とは縁遠く、受賞作品と耳にしても購入に至ることはありませんでした。そんな時、11日付朝日新聞1面の天声人語で「カフネ」という言葉を知りました。素敵な言葉に惹かれ、物語の内容にも関心を持つように。せっかくなら話題作を読んでみようと、書店に出向きました。

 

普段は小説をめったに読まない筆者が読破した感想とともに、本書の魅力を伝えたいと思います。ネタバレにならない程度にしますのが、少しでも本書を手に取るきっかけに繋がると嬉しく思います。まずは簡単にあらすじをご紹介。

 

不妊治療を続けた末に離婚し、溺愛していた弟も早世した。失意の底にいた薫子は、かつて弟の恋人だったせつなの働く家事代行サービスに関わる。料理人であるせつなの心のこもった料理の数々は、薫子だけでなく、多くの人の心をほぐしていく――。

(4月14日付 読売新聞朝刊「「カフネ」阿部暁子さん コロナ禍に執筆 息苦しさだけじゃない物語に」より)

 

本書の紹介文では、「食べることは生きること」と表されています。その言葉通り、せつなは料理を通して主人公である薫子だけでなく、多くの人の心を動かしていくのです。

 

物語は食を中心に展開していきます。随所で登場人物の抱えている事情や心情を垣間見ることができます。自分が見えているものが全てではないことを改めて考えさせられる、そんな作品です。登場人物が抱えている葛藤や本音を知る度、涙せずにはいられませんでした。

 

大学生になってから、新書や実用書を読むことが多くなりました。それは授業の課題で読む機会が増えたからというだけの理由ではなく、簡単に学べてすぐに役立つ知識や情報を欲していたからだと思います。たしかに、今も新書や実用書は学習に最適なツールだと感じます。ですが、時間をかけて物語の世界に没入し、登場人物の感情を想像するからこそ気づく学びや知識があると、本書を読んで思い出しました。

 

みなさんもぜひ「カフネ」を手に取ってみてください。心温まる物語が教えてくれることがきっとあるはずです。多くの書店員さんと同じく、私も本書を強くおすすめします。

 

 

参考記事:

 

10日付 朝日新聞朝刊(総合)3面「(ひと)阿部暁子さん 「カフネ」で第22回本屋大賞を受賞した」

10日付 朝日新聞朝刊(社会)「「大きな贈り物、報いたい」 本屋大賞に阿部さん「カフネ」」

11日付 朝日新聞朝刊(総合)1面「(天声人語)「カフネ」に込めた思い」

14日付 読売新聞朝刊(文化)「「カフネ」阿部暁子さん コロナ禍に執筆 息苦しさだけじゃない物語に」