3月下旬から公開されているディズニー実写版映画『白雪姫』。以下の文章は、ディズニー公式サイトで紹介されているイントロダクションの冒頭です。
雪のように純粋な心を持つ白雪姫の願いは、かつてのような人々が幸せに暮らす希望に満ちた王国。
皆さんは、この表現に違和感を覚えませんか。白雪姫という名前は、本来「雪のように白い肌」を持つことに由来しているのではなかったでしょうか。それが、この案内文では「雪のように純粋な心」とされています。筆者が原作とされるグリム童話の『白雪姫』を確認したところ、やはり「雪のように白いからだ」を持つことから白雪姫と名付けられたという記述がありました。
こうした変更は、今回の『白雪姫』に限ったことではありません。近年のディズニー実写映画には、特定の人物やグループに不快感や不利益を与えない様に配慮する「ポリティカル・コレクトネス」をことさら意識した配役やストーリーの改変が数多く見られます。例えば、白人中心のキャスティングを見直すことや、キャラクター設定において自立した女性像を押し出すことなどです。差別や偏見をなくすことを目的としたこのような取り組み自体は決して悪いことではありません。
では、なぜ実写版『白雪姫』が論争を呼んでいるのでしょうか?その背景には、現在アメリカを中心に世界で広がりつつある「反DEI」の動きがあると考えられています。
DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公正)、Inclusion(包摂)の頭文字をとった言葉で、人と社会のあり方を見直し、違いを尊重しながら、誰もが尊厳を持って共に生きるための理念です。しかし、DEIが社会的な影響を増すにつれて、それに反発する「反DEI」も世界で広がりつつあるのです。トランプ政権がこの流れを加速させているとの見方もあります。
歴史的に見ても、新たな社会的変革が進むと、それに対する一時的な反発が起きるのは珍しいことではありません。昨今のディズニー実写映画への批判も、そうした「価値観の『揺り戻し』」だと考えることもできます。しかし、それを単なる一時的な現象だと見なしてよいのでしょうか。
今回の『白雪姫』では、DEIの理念が優先された結果、「雪のように白い肌の白雪姫」という原作の設定が変更されてしまいました。今はまだ小さな変化に見えるかもしれませんが、こうした流れが加速して次第に大きくなることで、最終的にこれまでの伝統的な文化が失われてしまう結果になる可能性も否定できません。
DEIは現代社会において不可欠な視点である一方、行き過ぎれば文化の破壊を引き起こす恐れさえあります。どちらか一方に偏るのではなく、伝統を尊重しながらも、新しい時代にふさわしい表現を模索し続ける。そうしたバランス感覚を、私たち一人ひとりが身につけていくことが求められているのではないでしょうか。
参考記事:
4月7日付 朝日新聞朝刊(東京13版)4面(国際)「実写『白雪姫』映す米の分断 ラテン系起用・自立した女性像に反発 反DEIが拍車」
参考資料:
実写映画『白雪姫』公式サイト|ディズニー公式(最終閲覧:2025年4月10日)
https://www.disney.co.jp/movie/snowwhite-movie
グリム 菊池寛訳 白雪姫|青空文庫(最終閲覧:2025年4月10日)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001091/files/42308_17916.html
企業からの注目高まる「DEI」とは? わかりやすく解説|Hitachi Social Innovation(最終閲覧:2025年4月10日)
https://social-innovation.hitachi/ja-jp/article/what-is-dei/