減る人口、老いるインフラ ―コンパクトシティーをめぐるジレンマ

「利用者の命にも直結しかねない」。中野洋昌国土交通大臣は、2月4日の記者会見で、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故に関連して、インフラの維持管理の重要性を改めて強調しました。

八潮市の事故をきっかけにインフラ整備に注目が集まっています。未来のインフラはどうあるべきなのか。一つの答えである「コンパクトシティー」をもとに考えていきたいと思います。

インフラの老朽化が進んでいます。道路、トンネル、上下水道管など日常生活の基盤となる設備や施設は、高度成長とともに急速かつ集中的に整備されました。一般的な耐用年数は50年と言われていて、これから多くが交換や補修の対象となります。

国交省の将来予測によれば、2040年に約34%の下水管が老朽化を迎えます。さらに、トンネルは約52%が、道路橋は約75%がそれぞれ40年には建設から半世紀となります。

建設後50年以上経過する社会資本の割合
出典:国土交通省

インフラの老朽化がピークを迎える時期には人口も減少していることが予測されます。厚生労働省の推計によれば、2070年の日本の人口は8700万人と1億人を割り込みます。16年に出生数が100万人を割ってからは加速度的に少子化が進行しています。昨年の出生数は68万人と推計されていて、わずか8年で出生数が30万人減少したことになります。そのため、実際の人口減は厚労省の推計よりもさらに深刻なものとなる可能性があります。

並行して過疎化も進行します。2050年までに約3割の市区町村で人口が半数未満となり、現在、人が住んでいる地域の約2割が無居住化するとされています。こうした急速な人口減少とインフラの老朽化により、どの設備を維持するのか選択が迫られています。

古くなり、壊れていくインフラ。人が減り、過疎化する国土―。私たちは、この未来を受け入れるしかないのでしょうか。

コンパクトシティーという考え方が一つのヒントとなるかもしれません。これは、まばらに広がったまちの機能(住宅、商業施設、公共施設など)を集約して再編するものです。点在していたものを集めるため、水道管を短くできたり、余計な道路やトンネルを更新しなくて良くなったりすることで維持コストが削減できます。

こうした考え方を制度に落とし込んだのが2014年の都市再生特別措置法改正でした。同改正に基づいて、自治体は、「立地適正化計画」を定めることとなりました。自治体は、居住を促すことで人口密度を維持する「居住誘導区域」と、医療・福祉・商業等の都市機能を効率的に運用できる「都市機能誘導区域」を定め、住民が中心市街地に住むように政策的に誘導します。

しかしながら、居住地域の移転と言っても、住み慣れた土地には人々の暮らしや文化、記憶があります。行政がトップダウンで人々の住む場所を決定することは憲法22条が定める「居住移転の自由」に抵触します。

能登半島地震では、多くの建物が倒壊しました。インフラも打撃を受け復旧が急がれる中で、財務省の審議会である「財政制度等審議会」では、人口減少を見据えた集約的なまちづくりによる復興の必要性が議論されました。

これに対して石川県の馳浩知事は、県民の「元の生活をまずできるようにしたい」とした上で、財政審の議論には「冷水をバケツでぶっかけられたような気持ち」だと不快感を露わにしました。このように、コンパクトシティー構想は、どこを切り捨てるかという議論になりがちで、住民や自治体と国との間に亀裂を生むこともあります。

他方で、立地適正化制度が目覚ましい効果をあげているとは言えないことから、中心市街地以外で住居を建てることを規制するなど強制力のある都市計画法に基づいて政策を進めるべきだとする専門家もいます。

このように、制度開始から10年以上経った今でもコンパクトシティーをめぐる議論は割れています。国は自治体に計画を策定させるだけではなく、積極的な旗振り役となって政策を進めるべきでしょう。それには、永田町や霞が関が一方的に地方を切り捨てるのではなく、丁寧な説明により広く国民の合意形成を図ることが不可欠です。

 

<参考文献>

日経電子版「地方都市コンパクト化に課題 人口減対応の施策充実急務」2024年11月10日 配信

国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来 」

国土交通省「2050年の国土に係る状況変化」

厚生労働省「将来推計人口(令和5年推計)の概要」

NHK「石川 馳知事 国の財政制度等審議会の提言に不快感示す」