国内において、大学生や大学院生のうち、どの程度の人々が奨学金を利用しているのでしょうか?令和4年に日本学生支援機構が実施した「学生生活調査」によれば、大学生(昼間部)で55%が借りており、修士・博士課程でも50%後半の割合で推移しています。つまり、2人に1人の学生が奨学金を借り、大学生活を送っているのが現状です。
こうした背景には経済的な事情をはじめとして、さまざま理由が考えられますが、現在の日本では、就職活動時に「大卒」であることが必須条件となっていることから、無理をしてでも大学に進む人が増えたことも一因のようです。将来への不安を抱える若者による選択の結果ともいえるのではないでしょうか。
では、そもそも奨学金とはどのような制度なのでしょうか。ここでは、日本学生支援機構の奨学金について、簡単に説明をします。
同機構によれば、奨学金には、返済を求めない「給付奨学金」と返済を求める「貸与奨学金」の2種類があります。2020年からはじまった給付奨学金は、奨学金に加え、大学授業料・入学金の免除や減額といった制度になっています。一方、貸与奨学金は、8割近くが受給しており、採用基準には、学力や家計などでの基準が設けられています。さらに、利子がつくものとつかないものがあるという点では、注意が必要です。
額にもよりますが、大学時代に借りた奨学金は、社会人となってからの返済の上では重い負担になることも考えておかなければなりません。
返済には平均して14.7年を要し、毎月の返済平均額は16,880円となっているといいます。実際に、奨学金を借りたことに対して、後悔の念をもっているひとも少なくありません。さらに、東京大が今春学費を値上げするなど、国公立、私立のいずれでも学費の引き上げが続いており、奨学金の負担はますます大きくなるに違いません。
日本の企業では、こうした奨学金を代理で返済をする企業も出ています。日本経済新聞によれば、福利厚生の一環として、こうした「代理返還」をする企業が24年12月末時点で、2,781社となり、1年間で約2倍に拡大したといいます。優秀な学生を呼び込むきっかけになるだけでなく、企業側にとって一定の要件を満たせば、法人税が軽減されるメリットもあります。
こうした状況のなか、政府や地方自治体では学費の負担を軽減する動きが見られます。例えば、政府は、多子世帯の学生に向けて大学等の授業料・入学金を国が定める一定額まで減額・免除する案を閣議決定しました。さらに兵庫県では、県立大学の授業料無償化推進に向け、25年度予算案に約14億円を計上しました。
奨学金制度が整備されていることは、日本の将来にとって明るい要素の一つです。しかし、現代の物価高や給与の低迷、さらにそこにのしかかる奨学金の返済を考えると、結婚や出産には大きな壁となり、少子化問題をさらに深刻化させる要因になっているともいえます。社会全体で奨学金の問題に目を向けて、解決策を模索していくことが求められています。
また、こうした問題を考える中で、「大学で学ぶ」ということは何か改めて考える段階にきているように筆者は思いました。単に大学に進学することが目的化している現状があるうえ、大学3年次で就職活動が始まるなど、学びの本質が軽視されてきているようにも思います。
【参考記事】
3日付 日本経済新聞 夕刊 (1面) 「奨学金『企業肩代わり』拡大」
10日付 日経電子版 「兵庫県の25年度予算案、県立大学の無償化に14億円計上」
7日付 朝日新聞デジタル 「多子世帯の大学授業料の減免、所得制限なしに 改正法案を閣議決定」
【参考資料】
国民生活センタ―「奨学金制度を利用する前に 知っておきたいこと」
「令和4年度学生生活調査・高等専門学校生生活調査・専門学生生活調査」
(映像)
【奨学金】「結婚・子ども考えられない」奨学金返済が負担に…若者の“未婚化” 少子化対策で奨学金の負担軽減も?【news23】|TBS NEWS DIG