昨年、京都府宇治市の萬福寺の3つの建造物が国宝に指定されました。この寺は江戸時代に中国から伝来した黄檗宗の総本山で、禅宗の中でも中国的な仏教様式を色濃く残していることが特徴です。境内に入ると、異国情緒漂う伽藍が静かに出迎えてくれました。
3棟は寛文年間(1661~73年)に建てられたもので、既に重要文化財に指定されていました。今回の指定で国宝に格上げされたことになります。国宝や重要文化財に指定されると、修理事業に国の補助が得られます。
ただ、文化財の維持には国の助成策だけでは不十分な現実があるようです。同じ国宝を有する法隆寺(奈良・斑鳩町)は参拝者の減少と文化財の維持に必要な資材の高騰を理由に、今年3月から拝観料の値上げに踏み切ります。
たしかに文化財の維持には莫大な費用が掛かります。日本経済新聞によると、改修が進んでいる比叡山延暦寺(滋賀・大津市)の国宝「根本中堂」の本堂と回廊の工事費は総額50億4000万円。国が約6割の30億円、延暦寺が17億円弱を負担し、残りを滋賀県などが負担する予定です。伝統的な姿を保つために必要な資材は希少で高価なものが多いそうです。
ただでさえ資材の高騰が進む中、観光地や都市部にあり拝観料や寄付収入が期待できる有名寺社でも厳しい状況に置かれている状況がわかります。ましてや人口減少が進む地方部では、維持費となる檀家の減少により経営はますます厳しいものになると考えられます。
そんな中、ユニークな方法で維持費を集める寺院に出会いました。さきほどの萬福寺を参拝した後、「寺そば(ヴィーガンラーメン)営業中」と書かれた看板を発見しました。向かった先にあったのは宝蔵院という禅寺。萬福寺の末寺にあたるそうです。元は一切経の印刷所として建立されたもので、保存されている版木は重要文化財に指定されています。ただ、朝日新聞の記事によると保存環境が十分に整備されているとは言えない状況。そこで版木の保全修復費用を捻出するためにラーメンの提供をしているそうです。
本堂に入って提供されたのは醤油ラーメン。動物性食材を一切使用しない精進料理を思わせる一品。優しい口当たりであっさりした味は、静かな境内の雰囲気と相まって穏やかな気持ちにさせてくれました。寺院がラーメンを出すという話題性は、収入源というだけでなく宝蔵院や版木の存在を広く知ってもらうきっかけになるはずです。
文化庁によると、登録有形文化財の数は年々増え続けています。維持すべき文化財が増える一方で、維持する費用を賄うことが難しくなっています。ラーメンのような意表を突いた収入源の確保や、文化財と市民の接点を増やすことも求められるはずです。
参考記事
読売新聞「宇治の萬福寺 3棟が国宝指定へ…日中の建築様式を融合」(2024年10月19 日)https://www.yomiuri.co.jp/local/hashtag-kyoto/CO072596/20241018-OYTAT50018/
日本経済新聞「法隆寺の拝観料2000円に値上げ 高校生以上、25年3月」(2024年9月12日)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF121770S4A910C2000000/
朝日新聞「興福寺五重塔の改修工事も警察署も……資材高騰、奈良県内にも影響」(2023年1月25日)https://www.asahi.com/articles/ASR1S778XQDPPOMB00K.html
朝日新聞「京都の禅寺が「ラーメン、始めました」 週3日だけオープンする理由」(2022年12月9日)https://www.asahi.com/articles/ASQD7578JQCBPLZB02B.html
日本経済新聞「寺院の維持費どのくらい? 大改修1回で数十億円」(2021年10月30日)
読売新聞「「坊主丸儲け」はウソ?檀家にせまる危機とは」(2017年4月6日)
https://www.yomiuri.co.jp/fukayomi/20170405-OYT8T50063/
参考資料
文化庁HP「登録100回の軌跡」
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei_100kainokiseki.html