現行法上、片目失明者は「健常者」とみなされる場合が多いことを、ご存知ですか。障害者と認定されなければ、どれだけ生活に困難が生じていても、国や自治体による経済的・福祉的な支援を受けることができません。こうした人たちは、片目が失明したことによる困難に加え、障害者と認定されないことによる困難も感じているのです。本稿では、片目失明者が被る、現行法上の矛盾や理不尽について考えていきます。
◾︎どこからが視覚障害?
身体障害者福祉法は、視覚障害者を以下のように定義しています。
身体障害者福祉法 附則・別表
一 次に掲げる視覚障害で、永続するもの1 両眼の視力(万国式試視力表によつて測つたものをいい、屈折異常がある者については、矯正視力について測つたものをいう。以下同じ。)がそれぞれ〇・一以下のもの
2 一眼の視力が〇・〇二以下、他眼の視力が〇・六以下のもの
3 両眼の視野がそれぞれ一〇度以内のもの
4 両眼による視野の二分の一以上が欠けているもの
(引用:身体障害者福祉法 附則・別表の抜粋)
両目の視力(ここでは矯正視力のこと、以下同じ)が0.1以下である場合、もしくは片目の視力が0.02以下であり、もう一方が0.6以下である場合、視覚障害者と認定されます。裏を返せば、片目が失明していても、もう一方の視力が0.6より高ければ、障害者の認定を受けることができないのです。
病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合、原則として障害年金が支給されます。しかし、片目失明では「障害基礎年金」や「障害厚生年金」を受け取ることができません。「障害手当金」の受給は可能ですが、これは一時金にすぎません。
◾︎片目失明者にとって何が困難?
片目失明者は、日常生活や社会生活において心理的葛藤やストレスを感じたり、職業選択や免許取得での社会的な制約を余儀なくされたりしています。
NPO法人「片目失明者友の会」が2016年に実施したアンケート調査によると、いじめや差別を受けたことがあるという人が59%を超えています。義眼や斜視等を理由に容姿を揶揄され、精神的苦痛を感じる人が多くいました。また、遠近感や距離感をうまく感じ取れないことや、頭痛や眼精疲労、肩こりを生じやすいことも挙げられます。見えている方の目も失明してしまうのではないかという恐怖感を抱えている人も、少なくありません。さらに、警察官や自衛官、消防士などの職種に就けない、あるいは、大型自動車免許などの取得が認められていないなどの制限が多くあります。
また、義眼の制作・保守にかかる費用は、非常に高額です。しかし、多少でも眼球が残っている場合の義眼装着は、美容目的と判断され助成や補助を受けられません。治療費や通院費もかさみます。
◾︎理解促進と保障の拡充
片目失明者が抱える困難さは、あまり知られていません。片目が見えるなら、生活に支障をきたすことはそれほどない、と考える人も少なくないでしょう。視覚障害者の認定基準が見直されれば、片目失明者の困難さを知る人が増え、偏見や差別も減るはずです。
また、社会的制限を設ける以上、それに見合った保障も欠かせません。当事者の声が汲み取られた認定基準へと改正され、彼らが被る苦痛が少しでも減ることを期待しています。
参考記事:
・2025年1月24日付 朝日新聞朝刊 11面 私の視点「片目失明者の厳しい現実 視覚障害 認定基準見直しを」 (デジタル版 https://www.asahi.com/articles/DA3S16133408.html)
参考資料:
・厚生労働省 「片目失明者を障害者に認定すること等を要望します」(最終閲覧1月30日) https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12201000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu-Kikakuka/0000155564.pdf
・e-gov法令検索 「身体障害者福祉法」(最終閲覧1月30日) https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000283#324AC1000000283-Sp
・日本年金機構 「障害年金」(最終閲覧1月30日) https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html
・警視庁 「適正試験の合格基準」(最終閲覧1月30日) https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/menkyo/menkyo/annai/other/tekisei03.html