タレントの中居正広さんをめぐる問題で、テレビメディアや芸能界が揺れています。昨年12月26日、週刊文春の報道でフジテレビの女性アナウンサーも関係していることがわかり、同社へ説明を求める声が高まりました。今回の騒動から日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)について考えます。
報道を受けて、フジテレビは1月17日に港浩一社長らによる記者会見を開きました。今後、弁護士を中心とした第三者委員会の設置などにより調査を行うと表明しています。しかし、記者会見の実施形態などに批判が集中しました。同社の会見は、新聞社や通信社などに限られ、テレビ局やフリーの記者の取材が制限されたのです。
こうした同社の説明を回避する姿勢に対して、スポンサーが直ちに反応しました。会見の翌日(18日)には、トヨタ自動車や日本生命保険がフジテレビで放映しているCMを差し止めると発表。両社を皮切りに、NTT東日本など多くの企業のCMが公益社団法人ACジャパンの映像に差し替えられました。読売新聞によれば、CM差し止めは、現時点(22日)で75社となりました。
加えて、放送事業への監督権限を持つ村上誠一郎総務大臣も、同社の姿勢に対し、「適切に対応」してほしいと述べた上で、第三者委員会が独立性を確保した形で行われるよう要請しました。第三者委員会が日本弁護士連合会のガイドラインに沿わないものではないかとの疑問が噴出していたことを受けての発言です。
一方で米ダルトン・インベストメンツなどのファンドが、フジテレビに対して説明を求めています。ダルトンは、親会社にあたるフジ・メディア・ホールディングス(フジHD)株を7%保有しており、アクティビスト(物言う株主)として、第三者委員会の設置などを求める書簡を14日付けで送付しました。さらに、21日付で二度目の書簡を送付。フジテレビの対応を「真相隠蔽」として批判し、記者会見を再度開くよう注文をつけました。
日本では、1990年代に相次いだ企業不祥事を受け、欧米で一般的な「コーポレート・ガバナンス」(企業統治、CG)の概念が取り入れられてきました。そこには企業の不正や不祥事を防ぐことや透明性を高める取り組みが含まれます。2015年に金融庁などから「コーポレート・ガバナンス・コード」(企業統治指針)が示され、上場企業は遵守する姿勢を明らかにしています。
同指針では、例えば、社外取締役を全取締役の3分の1とするなど不正を未然に防止する仕組みを整えることが定められています。日経新聞によると、東証プライム上場企業の98%が同基準に従っているようです。
今回問題となっているフジテレビもCG体制を構築し、ホームページ上で公開しています。しかし、形式的に策定されるのみで肝心の説明責任などが果たされないようでは、日本企業の経営姿勢への疑念を呼び起こし、経済全体にとっても大きなマイナスです。昨年、日経平均株価が4万円を突破し、現在も3万円台後半で推移しています。さらに投資を呼び込むためには、海外投資家などに対して適切に企業統治が運用されていることを示さなければなりません。日本企業は、表面的なGCの遵守だけではなく、実際に機能するガバナンス強化へ向け努力しなければなりません。
<参考文献>
朝日新聞デジタル「フジテレビ不信、噴出 中居さん問題、CM差し止め30社超」2025年1月21日配信
朝日新聞デジタル「フジ社長、中居さん問題謝罪 調査委の設置を表明」2025年1月18日配信
朝日新聞デジタル「中居さん問題、弁護士が調査 フジテレビ「結果踏まえ対応」」2025年1月16日配信
読売新聞オンライン「説明不足フジに批判 中居さん問題 社長会見不信増幅」2025年1月22日配信
日経電子版「総務相「適切に対応を」、中居さん騒動巡るフジ会見受け」2025年1月21日配信
日経電子版「トヨタや日本生命、フジCM差し止め 中居正広さん問題」2025年1月18日配信
日経電子版「フジHD統治巡り米ファンド「株主総会で議案」」2025年1月17日配信