只今絶賛公開中の「正体」という映画を観るにあたって、再審無罪となった袴田巌さんのことや死亡ひき逃げ事件で警察に重要指名手配されている八田與一容疑者のことを思い出さずにはいられませんでした。警察や司法といった国家権力が、一人の人生を壊してしまう。そんな恐怖も感じさせる、現代社会の闇に深く踏み込んだメッセージ性のある映画だったと感じています。
「日本中を震撼させた凶悪な殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)が脱走した。潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体とは?そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とは。その真相が明らかになったとき、信じる想いに心震える、感動のサスペンス」(松竹、2024)といったあらすじになっています。
原作は染井為人氏の同名小説で、監督は『余命10年』(2022)などを手掛けた藤井道人氏です。逃亡シーンと次の潜伏先で人間関係を構築していくシーンが交互に繰り返され、息つく暇もないくらい怒涛の展開でした。特に印象的だったのは、横浜流星演じる鏑木の五変化です。連日の報道で顔や特徴が露呈していく中で、潜伏先ごとに顔や雰囲気を変えていきます。そして、各潜伏先で親しくしていた人に正体がばれていく瞬間も必見です。
「結末を含め原作と異なる点が多々あり、サスペンス要素や社会への問題提起は弱まった。だが、染井が『小説へのアンサー』と絶賛する通り、この展開が見たかったという原作ファンも多いのではないだろうか。逃走中に鏑木が名乗る偽名が、冤罪で死刑囚にされてしまった実在の人々の名前にちなんでいるなど、原作が持つ強烈なメッセージもしっかりと受け継がれている」(読売新聞、2024)との映画評を目にしました。
ここ数ヶ月、東京地検特捜部の不適正な取り調べや袴田事件での証拠捏造の疑いなど国家の信頼を揺るがすようなニュースが多く聞かれます。そしてSNSは不確かな情報で溢れており、私たち自身のメディアリテラシーが求められています。だからこそ、国家権力や日々のニュースの「正体」を私たち自身で暴いていく必要があると感じます。1月16日(木)で劇場公開は終了予定とのことなので、関心のある方はお早めに。
参考文献
「映画『正体』公式サイト 大ヒット上映中!」〈https://www.bing.com/ck/a?!&&p=690f2cca9cfc2efe7acc42af08f85717646dcb7fa46a7782e0a9c9356244c7c1JmltdHM9MTczNjQ2NzIwMA&ptn=3&ver=2&hsh=4&fclid=3f51fb22-9466-663e-22b9- f5d7958c6701&psq=%e6%98%a0%e7%94%bb%e3%80%80%e6%ad%a3%e4%bd%93&u=a1aHR0cHM6Ly9tb3ZpZXMuc2hvY2hpa3UuY28uanAvc2hvdGFpLW1vdmllLw&ntb=1〉。
2024年12月6日付読売新聞「[映画]正体=TBSテレビ、松竹ほか 死刑囚 決死の逃走の訳」。