既存の名作が最新技術によって生まれ変わり、魅力を増そうとしています。そこには芸術作品も建築物も違いはありません。
「レ・ミゼラブル」を始めとする数々のミュージカルを上演してきた帝国劇場(東京・日比谷)が、今年2月をもって、建て替えのための休館期間に入ります。現在の帝国劇場を締めくくる「レ・ミゼラブル」は、1987年の初演から約3,500回上映されてきたほどの人気作品です。
原作は、ヴィクトール・ユゴーが19世紀初頭のフランスの動乱期を舞台に書いた同名の小説です。舞台でも、原作が有する「無知と貧困」「愛と信念」「革命と正義」「誇りと尊厳」といったテーマが詰め込まれています。
舞台「レ・ミゼラブル」が初めて上映されたロンドンはもちろん、日本でも熱狂的な支持を得ている本作品ですが、人気の理由は映画版「レ・ミゼラブル」の大ヒットとの相乗効果にもありました。
2012年12月に、ミュージカル版を基に映画版「レ・ミゼラブル」が公開されました。日本国内の興行収入は58.9億円を記録し、日本アカデミー賞外国映画賞を受賞するなど、興行的にも賞レースでも高い評価を得ました。作品の魅力は、歌と音楽のパワーにあると考えます。なぜなら、これまでのミュージカル映画は事前に録音した歌声に合わせて演じ撮影するのが通常だったのに対し、本作は撮影と同時にキャストの歌声を録音するという、革新的な方法が用いられているからです。
録音した歌に合わせて後からオーケストラの伴奏が付けられているため、役者の感情や揺らぎが音楽そのものに反映されている点がとても興味深く、心を揺さぶられる要因の一つになっています。
そんな名作が、昨年12月27日から「レ・ミゼラブル デジタルリマスター/リミックス」として公開されています。筆者も年末年始の帰省の際に映画館へ足を運びました。これまでパソコンの画面でしか見たことがなかっただけに、空気が震えるような迫力のあるオープニングに心を掴まれ、映画館ならでは、リマスターならではの音響と映像に夢中になってしまいました。
これまで親しまれてきた名作に最新技術を加えることで、作品の持つ魅力をさらに増幅させることができるのだと実感したひと時でした。
そして、舞台「レ・ミゼラブル」を上演している帝国劇場は、隣接のビルと一体となった29階建てのビル一棟に改築する形で新たに生まれ変わります。周辺の再開発が進む中、歴史と伝統を守りながらどのような姿で再び現れてくれるのか楽しみです。
奇しくも歴史を持つ芸術作品と建築物が、それぞれ最先端の技術により再生することになりました。
【参考記事】
2024年12月28日付 朝日新聞デジタル『帝劇ミュージカル「レ・ミゼ」と37年 数々のスター発掘、建て替え休館へ』
2024年12月19日付 朝日新聞デジタル『帝劇ビルと国際ビル、29階ビル一棟に改築 有楽町の再開発が本格化』
【参考資料】
「伝説のミュージカルが極上の映像と音響で蘇る!『レ・ミゼラブル デジタルリマスター/リミックス』12月公開へ」、2024年11月15日
レ・ミゼラブル イントロダクション、2025年1月10日(最終閲覧日)