10月27日に投開票された衆議院選では、与党(自民党・公明党)が、選挙前の議席を大きく減らし、与野党伯仲の国会となりました。他方で、躍進した国民民主党などの中堅政党が国政の行方を左右する状況となり、来年の参議院選挙に向けて各党が政策をアピールしています。
さて、この総選挙の投票と同時にあったのが、「最高裁判所裁判官国民審査」です。これは、憲法79条で規定され、最高裁判所の裁判官について、国民がその職責にふさわしい者かどうかを直接審査するものです。「国民主権の観点から重要な意義」(総務省)があるとされています。
審査対象の裁判官を信任しない場合には「×」を書き、信任の際は何も記載せずに投票します。「×」以外の記号等(「○」など)を記載した場合「無効票」とされます(最高裁判所裁判官国民審査法)。不信任が有効投票の半数を超えた場合、その裁判官は罷免されることとなります。
最高裁の判事は、まず任命された後に初めて行われる衆院選の投票日に国民審査を受けます。最初の審査から10年が経過した後に行われる総選挙でさらに審査を受けます。その後も同様に10年ごとに審査されます。
この制度は多くの批判にさらされてきました。例えば、何も記載しないことが信任とみなされる投票方式や審査にあたっての判断材料が少ないなどです。また、裁判官に任命された直後で最高裁での実績がない状態で審査せざるを得ない状況も生じ、有権者を困惑させてきました。さらに、この制度は長年「形骸化」していると指摘されてきました。1949年の制度開始から70年以上の間196人の裁判官が審査対象となりましたが、罷免された例はありません。
しかし、26回目となった今回の国民審査では近年稀に見る高い水準で「不信任」の意思が示されました。今崎幸彦氏(最高裁長官)を含む6人が今回の審査で対象となりましたが、罷免を求める投票数は、6人全体で10%を超えました。
NHKによれば、一人でも10%を超えたのは2000年以来。また全体の不信任率が10%を超えるのは、1990年の審査以来34年ぶりとなりました。今崎氏に対しては、622万の不信任票が投じられ、11.46%と6人の中で最も高い割合となりました。他に尾島明氏(11%)、宮川美津子氏(10.52%)などが10%を超えています。
なぜ高水準となったのか。一つの要因を示すことはできませんが、最高裁の判決に疑いの目が向けられた結果と言えるでしょう。例えば、夫婦同姓を定めた法律に「合憲」との判断を下した2021年の判決に対してX(旧ツイッター)などのSNS上では多くの批判が見受けられました。今回の国民審査前にもSNS上では、投票で「×」を書こうなどと呼びかける投稿を見かけました。こうした「声」が反映された結果と言えるかもしれません。
では、この「世界でも珍しい」とされる国民審査制度は、一体なぜ導入が決定されたのでしょうか。次回は、その経緯を憲法制定過程にまでさかのぼり見ていきたいと思います。
<参考文献>
朝日新聞デジタル「最高裁裁判官の国民審査、解職なし 長官ら4人が「×」10%超」配信日2024年10月28日
読売新聞オンライン「最高裁裁判官、国民審査で6人全員が信任…罷免求める割合10%超が4人」配信日2024年10月29日
日経電子版「最高裁裁判官の国民審査「×印」の割合、30年ぶり高水準」配信日2024年10月29日