投票に行かないと罰金? 南米エクアドルの選挙事情

今月6日から現在まで、筆者は南米エクアドルの首都キトに滞在しています。赤道直下に位置するエクアドルは、太平洋に面しており、コロンビア・ペルーと国境を接しています。ガラパゴス諸島に代表されるような豊かな自然を擁し、世界有数のカカオ・バナナの生産国として知られています。

エクアドルでは、今月9日に大統領選の一次投票が行われます。国内在住の18歳以上65歳未満の国民に対して投票が義務付けられており、投票に行かなかった場合には47米ドル(最低月給の10%相当)の罰金が科されます。さらに、7日正午から10日正午までアルコール飲料の販売と消費は制限されており、これを破った場合には235米ドル(最低月給の50%相当)の罰金が科されるのです。国民は投票日を重要な日として捉えており、投票率は8割にも上ります。

キト市街では、再選を目指すノボア現大統領の支持者による演説を耳にしたり、宣伝として配られている彼の等身大パネルを脇に抱える人々を目にしたりします。また、19万近くものエクアドル人らが移民として暮らすスペインでは、各地域に多くの選挙区や投票センターが設置されています。選挙で街が沸き立つ様子をこれまで見たことがなかったので、国民の政治への関心の高さにとても驚きました。

その一方で、昨年1月には生放送中のテレビ局スタジオに武装集団が乱入したり、2023年8月には大統領選の立候補者ビジャビセンシオ氏が選挙集会後、銃で撃たれて殺害される事件が発生したりしています。ビジャビセンシオ氏は、ジャーナリストとして政府の汚職や組織犯罪を追及し、2021年からは国会議員として活動してきました。選挙期間中には、汚職や組織犯罪を撲滅しようと大統領選に臨んだ彼は、麻薬密売組織からの脅迫を受けていたと語っていました。政府の汚職を訴えれば政権から弾圧される、組織犯罪を明らかにすればギャングから命を狙われる恐れがあります。私はメキシコ人の知人に「ジャーナリストになろうかと思ったけど命を落すのが怖いから止めた」と言われたことを思い出しました。

ラテンアメリカ地域では、市民が政治に高い関心を示している一方でも、民主主義を奉じて政治に関与することで命を脅かされる可能性があります。治安改善を求める国民の声に応えるためには、犯罪組織を断絶させることが必要不可欠です。今後の大統領選の成り行きを見守っていきたいと思います。

 

参考記事:

8日付 Cuándo son las elecciones de Ecuador 2025 y cómo votar desde España: El Mundo

2024年1月10日 生放送中のTVスタジオ占拠、武装集団がスタッフに暴行…エクアドルで治安悪化:読売新聞オンライン

2023年11月28日付 大統領選有力候補まで暗殺?南米エクアドルでいったい何が?:NHK 国際ニュースナビ