毎年話題になる流行語大賞。今年も、ノミネートされた30語のなかから「ふてほど」が大賞に選ばれました。大賞にはなりませんでしたが、筆者の目に留まったのが「界隈」という言葉です。本来は「その辺り」などの地理的な範囲を意味する言葉でした。ですが、近年では「共通の人びと」を指すようになり、仲間や近い存在など、その辺りの人たちという意味合いで使われるといいます。
なかでも「風呂キャンセル界隈」という言葉をSNSでよく目にします。風呂が面倒で入らない、あるいは後回しにするといった人達のことを指すようです。自嘲的なスラングとして用いられた投稿も多数あり、数日間、風呂に入らないことがよくあるといった告白も見かけます。
一方で、風呂に入らないことを面白おかしく言葉にしたことを批判する投稿も見受けられます。精神面が心配、笑い話ではない、など様々な意見が飛び交っていました。風呂に入る気力がない状態は一種のセルフネグレクトといえるのではないか、筆者はこの投稿にハッとさせられました。
セルフネグレクト
普通の日常生活を営もうとする意欲や生活能力を喪失し、自己の安全や健康が脅かされる状態となること。自己放任と意訳される。必要な飲食をする、体調を維持する、身なりを整える、自分や周囲を衛生的な状態に保つ、金銭を管理するなどの生活意欲と能力が失われ、ときに医療をも拒否するまでになる。
(日本大百科全書より引用)
いわゆるゴミ屋敷で生活しているのもセルフネグレクトに当てはまると言われています。孤独死を招く原因になることもあるそうです。自分自身を大切に出来なくなる状態を指すといえるでしょう。
面倒くさい、疲れた、どうでもいい、そういった感情から風呂に入れなくなる状態も、たしかに精神が疲弊しているサインといえそうです。筆者自身、疲れて何もしたくない、何もできないという気持ちに陥ることがあります。心身ともにくたびれ切ったので、入浴が面倒くさくて仕方がない気持ちに。共感できる人も少なくないはずです。
特段ストレスを意識する大きな出来事がなくとも、自分では気がつきにくい日々の疲れが蓄積し、精神を蝕むこともあるでしょう。そういった状態を明るくポップに表現した言葉には、精神的疲労を軽視する危うさが潜んでいるように感じます。
SNS上の流行語に踊らされず、今一度、自分の頭で考える。これは、非常に大切なことだといえます。風呂キャンセル界隈という流行語が、自分自身の状態を見つめ直す言葉として使われるようになればいいのですが。
参考記事:
10月24日付 朝日新聞朝刊(オピニオン)「(耕論)どう描く、日本の将来像 苅部直さん、佐々江賢一郎さん、飯島裕子さん」
参考資料:
NHK「2024年「新語・流行語大賞」30の候補 発表【一覧で詳しく】」