先進国を中心に相次いだ政権交代や与党の苦戦、激化する紛争といった様々な混乱に見舞われた2024年も終わりを迎えようとしています。
ただ、今月に入ってからも韓国では尹錫悦(ユンソンニョル)大統領による「クーデター」未遂が起こり、シリアでは独裁政権が反体制派によって崩壊するなど、世界情勢は一層流動化しています。
混沌とした時代において、人々の意思決定の基盤となる情報はどうあるべきなのでしょうか。
◯広まるSNS規制
世界中で広がるSNSの利用は、こうした情勢に少なからぬ影響を与えていると言えるでしょう。
11月のアメリカ大統領選で再選を果たしたトランプ氏は、不確かで攻撃的な情報発信を繰り返し、物議を醸しました。
AIの発達によって偽動画や偽画像が誰でも作れるようになり、そうしたディープフェイクがSNS空間を通じて瞬時に世界中に広がるという問題もあります。
こうした中、SNSの利用を制限する動きも出てきています。
先月28日、オーストラリア議会で16歳未満のSNS利用を禁止する法案が可決されました。国家レベルでの利用規制は世界初で、X(旧ツイッター)やインスタグラム、TikTokなどが対象となります。アメリカの一部の州や欧州諸国でも同様の動きが見られます。
これらの規制は子供を有害なコンテンツから遠ざけるという趣旨のものですが、有害なコンテンツの流通そのものを規制する動きも見られます。
例えば、欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)はデジタルプラットフォーマーに対し、ヘイトスピーチや偽情報などへの対応を義務付けています。
偽情報が氾濫する中、発信内容そのものへの規制についても踏み込んだ対応が必要でしょう。
◯責任ある情報をどう伝えるか
偽情報が氾濫する中、報道機関が正確な情報を伝え、政府や公的機関も発信に努める必要性は大きくなっていると言えます。
正確な事実や情報源に基づいたものであることは言うまでもありませんが、もう一つ問われているのはその発信方法でしょう。
インターネット上で瞬時に広まる偽情報に対し、記者会見やプレスリリースといった従来型の情報発信がどれほど効果的かには疑問を禁じ得ません。
ロシア出身の科学者で、ドイツでの反ナチズム運動にも参加したセルゲイ・チャコティンは、その著書『大衆の強奪』のなかで、ナチスの体系的なプロパガンダに対して従来型の古い選挙運動で応じた社会民主党を痛烈に批判しています。その上で、既成政党もナチスの宣伝手法を取り入れ、それによりプロパガンダに対抗するべきだったと主張しています。
彼の指摘は、現代における偽情報への対応にも通じるところがあるのではないでしょうか。
責任ある情報を広めるにあたっては、媒体や伝え方の工夫も不可欠であると言えます。どれほど正確な情報であっても相手に伝わらなければ意味がありません。
技術の発達により、情報が世界に与える影響は一段と大きくなっています。このような時代だからこそ、情報との向き合い方を真剣に問い直す必要があるでしょう。
参考記事:
12月14日付 読売新聞朝刊8面「韓国戒厳令の舞台裏 決行2日前 指令下る 当日の閣議 5分で終了」
12月10日付 朝日新聞朝刊1面「シリア政権崩壊、アサド氏亡命 反体制派の統治焦点 首都制圧」
日経電子版「オーストラリア、16歳未満のSNS利用禁止案可決 世界初」(2024年11月28日)
日経電子版「SNS年齢制限広がる オーストラリアは16歳未満禁止法案」(2024年11月10日)
日経電子版「EU、巨大ITの寡占防止 6社のサービスを規制対象に」(2023年9月6日)
参考資料:
セルゲイ・チャコティン(佐藤卓己訳)『大衆の強奪 全体主義政治宣伝の心理学』(創元社、2019年)