本日、12月10日は世界人権デーです。1948年のこの日、第3回国連総会(パリ)において世界人権宣言が採択されました。これを記念して50年に12月10日を世界人権デーとすることが決まりました。世界人権デーには、加盟国などに人権思想の啓発のための行事を実施するように呼びかけています。
世界人権宣言は、当時の国連人権委員会議長のエレノア・ルーズベルト夫人(米大統領フランクリン・D・ルーズベルトの妻)によって起草されました。二度の世界的な大戦を経て平和を希求する声が強まる中、世界で初めて基本的人権を保障することを国際的に掲げた声明です。
今回の記事では、世界人権デーにちなんで人権侵害について、中でもSNSの利用方法に焦点を当てて考えていきたいと思います。
[人権擁護に対する人々の声]
まずは、2022年に法務省が行った人権擁護に関する世論調査を参考に人権に関する様々な考えを見ていきたいと思います。この調査は1958年から概ね5年おきに実施され、全国18歳以上の日本国籍を有する者3000人を対象としています。
まずは、「新聞・テレビ・インターネット等で「人権が侵害された」というニュースが報道されることがあるが、ここ5〜6年の間に、日本で、人権が侵害されるようなことについてどのように変わってきたと思うか」という質問に対しての回答です。
図1 法務省 「人権擁護に関する世論調査 令和4年度」より引用
(前回調査では、選択肢は「少なくなってきた/あまり変わらない/多くなってきた」の3つであったが、今回調査では「どちらかといえば少なくなってきた/どちらかと言えば多くなってきた」を加えた5つの選択肢となっている)
2017年度と比較すると、少なくなってきたと回答した割合が約8%増加している一方で、多くなってきたと回答した割合も約10%増えています。これは、SNSの利用者が増加し、生活をする中で目に入る情報が格段に増加したことが要因だと筆者は考えます。
筆者自身も日頃よくSNSを利用しますが、ほっこりする動画にさえ必ずといっていいほど誹謗中傷のコメントが見受けられます。インターネットを仲介し、他者との距離感が掴みづらいSNSだからこそ、人を傷つけるハードルが下がっているように感じます。
次に、人権侵害の経験の有無と侵害の具体的な内容について尋ねた結果です。
図2 法務省 「人権擁護に関する世論調査 令和4年度」より引用
図3 法務省 「人権擁護に関する世論調査 令和4年度」より引用
回答を見てみると、17年度と比較して、人権侵害をされた経験があると回答した人の割合は約12%増加し、人権侵害の内容についても各項目で概ね増加しています。また、あらぬ噂や悪口が54.4%と非常に高い数字となっている点やセクシュアル・ハラスメントやジェンダーなどによる差別の比率が増加していることが分かります。
近頃は様々な人権侵害についてのニュースを目にしますが、その被害は深刻であると言えます。
[各国で加速するSNS利用の制限に関する議論]
日本における人権問題について関心があるものは、という質問に対する回答です。
図4 法務省 「人権擁護に関する世論調査 令和4年度」より引用
やはり、インターネット上の誹謗中傷による人権侵害への関心の高さが分かります。
先日、オーストラリアでは、16歳未満のSNS利用を禁止する法案が賛成多数で可決されました。世界初のSNS利用禁止を含んだ法律は来年末から施行される予定です。規制の対象となるのは、「Tiktok」、「Instagram」、「X」(旧Twitter)などの動画や写真投稿アプリなどです。これらのアプリの利用は仮に保護者の同意があったとしても、利用者が16歳未満であれば罰則の対象となるそうです。
法案では、SNSを運営するプラットフォーム事業者に16歳未満の子どもの利用を認めない適切な措置を求め、違反した事業者には最大約50億円の罰金を科すことが定められました。罰則の対象が利用者ではないという点が特徴的です。
また、日本政府は11月25日、インターネット上の青少年保護に関する検討会を立ち上げました。ネットの普及や利用者の低年齢化によるトラブル増加を受け、各国ではSNS利用に年齢制限を課す議論が進んでいます。20年の内閣府調査によると、自分専用のスマートフォンを持っている小学生は41%、中学生は84%となっています。近年では、小中学校でSNS利用に関するプログラムが設けられ、教育現場でのSNSに関する学習も盛んになってきています。ただ、SNS上のトラブルはプライバシーの関係上、学校の関与が難しいため、個々人での自制や家庭内での対策が必要です。
誰もが心地よく安全に利用できる環境が整うのであれば、SNS利用に関するルールが作られても良いという声もありますが、まだまだ世代間でのギャップは大きいようです。
また、SNS関連以外の人権擁護に関する国の取り組みとしては、法務省の人権擁護機関が以下の人権啓発運動を展開しています。
・人権の花運動
全国の人権擁護委員が中心となって、主に小学生を対象に花の種子や球根などを配り、小学生が協力して草花を育てることによって生命の尊さを実感し、豊かな心を育み、優しさと思いやりの心を体得することを目的とした活動。
・人権教室
人権擁護委員が全国各地の小中学校や幼稚園などを訪れ、手作り紙芝居や人形劇などを通して、相手を思いやる優しい気持ちを育てる活動。
・企業研修
人権擁護委員が、無償で企業などの人権研修の講師となり、企業に求められている社会的責任や男女共同参画の意義などに触れながら、人権尊重の重要性について講演を行う。
上述した以外にも、様々な団体が人権擁護に関する取り組みや教育を展開しています。侵害を受けた人々を保護、支援するだけではなく、そもそも人権を侵害しない人になるための教育をより整備していく必要があると筆者は考えます。
昔と比べ、他者との関わり方が多様化した今だからこそ、人権に関する教育も変化していく必要があるのではないでしょうか。特に、SNSはこれからの生活に欠かせない存在となっているため、良い面と悪い面のどちらも理解した上で利用することを心がけましょう。
参考文献
・法務省 人権擁護に関する世論調査
参考記事
・2024/12/3 NHK 首都圏ナビ 「16歳未満のSNS利用禁止」どう受け止め?オーストラリア議会で可決 JR渋谷駅周辺で聞いてみた