保護司とは?〜前科者を支える人々〜

筆者は先日、『前科者』という保護司の女性が主人公の映画を観ました。香川まさひとさん原作の漫画が2021年にテレビドラマ化され、翌年に映画化されたものです。
作中で描かれていた犯罪や非行をした人々の社会復帰に貢献する保護司の活動や前科を負った人々が抱える様々な思いに非常に感動しました。

また、令和6年5月に滋賀県で保護司の男性が殺害されるという事件が起きました。殺人の疑いで逮捕されたのは、被害男性が立ち直り支援をしていた保護観察中の男でした。このような事件が起きたことで、保護司の仕事は危険であるという認識が広まり、なり手不足の加速や保護司を辞めようとする人が増加する恐れもあります。今一度、保護司の認知度が高まり、正しい認識を広めるためにも今回の記事では、犯罪・非行をした人の更生保護を行う保護司についてご紹介していきます。

〈保護司とは〉
犯罪や非行をした人の立ち直りを地域で支える民間のボランティアです。保護司法に基づき、法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員とされていますが、給与は支給されません。実質的には民間のボランティアです。

定数は全国で5万2500人と定められており、実人員としては全国に4万7千人ほどいるとされます。任期は2年ですが、大半の方は再任を重ねて長期的に保護司としての活動を続けられるそうです。

保護司になるためには、以下の条件を備えている必要があります。(保護司法第3条1項より)

・人格及び行動について、社会的信望を有すること
・職務の遂行に必要な熱意及び時間的余裕を有すること
・生活が安定していること
・健康で活動力を有していること

また、禁錮以上の刑に処せられた人などは保護司になれないとされています。

保護司は法務大臣によって委嘱され、委嘱の手続きは法務省の出先機関である保護観察所で行われます。保護観察所は都道府県ごと(北海道は4か所)に設置されています。

〈保護司の活動内容について〉
保護司は、保護観察官(更生保護に関する専門的な知識に基づいて、保護観察の実施などに当たる国家公務員)と協力して主に以下の活動を行います。

・保護観察
更生保護の中心となる活動で、犯罪や非行をした人に対して、更生を図るための約束ごと(遵守事項)を守るよう指導するとともに、生活上の助言や就労の援助などを行い、その立ち直りを助けるものです。

・生活環境の調整
少年院や刑務所に収容されている人が、釈放後にスムーズに社会復帰を果たせるよう、出所後の帰住先の調査、引受人との話合い、就職の確保などを行い必要な受入態勢を整えるものです。

・犯罪予防活動
犯罪や非行をした人の改善更生について地域社会の理解を求めるとともに、犯罪や非行を未然に防ぐために、毎年7月の「社会を明るくする運動」強調月間などの機会を通じて、講演会、住民集会、学校との連携事業などの犯罪予防活動に取り組んでいます。

保護司に給与は支払われません。しかし、給与という対価が存在しないからこそ、対等な立場や目線で相手と向き合うことができ、1人の人間として目の前の人の立ち直りの支援を行うことができるといわれます。

なお活動内容に応じて実費弁償金が支給されるそうです。例えば、保護観察所長から裁判所や検察庁などへの連絡、特殊な事務処理などでは、1日あたり6,600円以内などと決まっています。

犯罪や非行をした人々も、何らかの処分を受けた後は地域社会に戻り、社会の一員として生活を送ることになります。しかし、いきなり社会復帰をしても仕事や身寄りがない人も多く、うまく社会に馴染むことができず、再犯を犯してしまう人も少なくありません。

法務省によると、平成30年に刑事施設を出所した者のうち、3割を超える者が出所後の犯罪により、出所後5年以内に刑事施設に再入所しています。さらに、そのうち約半数が2年以内に刑事施設に再入所しています。

図1 法務省 「法務省だより あかれんがvol 84 2024」より引用

保護司は、犯罪や非行をした人々の再犯の防止と立ち直りを支援するとともに、地域の犯罪・非行の予防に尽力しています。保護司の活動による支援が充実することで、出所後の生活が安定し、社会で生きていく力を育てられることが見込まれます。

罪を償う体制を整えるだけではなく、罪に走らなくても良い環境・状態を形成していくことが求められています。

また、上述した事件等の影響により、保護司の安全対策を重視すべきだという声もありますが、制度の改善ばかりではお互いに心の距離が離れ大切なつながりが希薄になる恐れもあります。精神的な距離の近さという保護司の魅力を損なわない方向で検討が進むことを望んでいます。

近年では、お笑い芸人のバッドボーイズ・佐田正樹さんが1ヶ月保護司として活動し、その活動に密着したドキュメンタリー動画が公開されたり、同じくお笑い芸人のジャルジャルのお二人がYouTubeで保護司をテーマとしたコラボ動画を制作したりと、より良い社会の実現に向けた多角的な活動が行われています。

ただ保護司の約8割以上が60歳以上となっており、高齢化が問題視されています。これまでは76歳を超えると再任しないとされていたところ、令和3年度からは、78歳までは活動が続けられるよう再任の運用が変更されました。

保護司について知ることで、同じ地域で生きる者として、改めて出所後の支援の大切さを学ぶことができました。
犯罪・非行をした人々を敬遠するのではなく、社会全体として支援の輪を広げていくことが大切であり、学ぶことが必要だと筆者は感じています。罪を犯した人々の人生を支える保護司について、これからも学び続けていきたいと思います。

参考文献
・法務省 「法務省だより あかれんがvol84 2024」

・全国保護司連盟 「統計で見る保護司」

・全国保護司連盟 「保護司とは」

・法務省 「保護司になるには」

 

・法務省 「保護司、保護司組織(保護司会、保護司会連合会)」

・参考記事
2024/11/28付 朝日新聞デジタル(現場へ!)「立ち直り」を考える:4 人とのつながり、再犯防ぐ

2024/11/24付 朝日新聞デジタル「私もちっぽけだよと言えるから」 保護司を描いた「前科者」原作者

2024/11/22付 朝日新聞デジタル 罪犯した人を自宅に迎える 自分さらけ出す保護司「頭から離れない」

2024/10/25付 朝日新聞デジタル「幸せになって」 更生支える保護司の高齢化と、高止まりする再犯率

2024/7/23付 NHK松山放送局 WEBニュース特集 保護司殺害事件 支援と安全のはざまで揺れる現場 愛媛の保護司は?