治し支える医療へ、臓器移植の医療体制はどう変わる?

「事故で恋人を失ったヒロインと、その恋人に命を救われた男

運命に翻弄されるふたりの美しくも切ない、“さよなら”から始まる愛の物語。」

「恋人の雄介をプロポーズされたその日に交通事故で亡くし、悲しみに打ちひしがれるさえ子。一方で、雄介の心臓を提供された相手・成瀬は、心に違和感を覚えていたー。」

 

これらは、Netflixシリーズ「さよならのつづき」のあらすじです。11月14日からNetflixで独占配信されています。筆者はティザー予告に興味を惹かれ見始めたところ、心を奪われてしまい、全8話を一晩で見終えてしまいました。

 

Netflixのページで「恋愛ドラマの新たな金字塔」と紹介されている通り、恋人や夫婦、友人などにおけるさまざまな愛が描かれています。本作において物語の大きなカギとなるのが、臓器移植です。あらすじにある通り、交通事故により雄介が亡くなり、成瀬がその心臓を提供されることで物語が動き出します。フィクションであり、ラブストーリーであり、エンターテインメントでもある本作では、臓器移植の仕組みや移植に伴う問題自体に触れることはほぼありません。作中において、成瀬が臓器移植を希望することを決めてからレシピエントとして実際に提供を受けるまで、とてもスムーズに進んでいるように見えました。

 

ただ、現実の臓器移植について考えてみると、人の「死」の要件、ドナー側・レシピエント側の意思、移植医療体制の確立など、様々な課題があります。

そもそも臓器移植とは、心臓・肝臓・腎臓などの主要臓器の機能が失われるか、著しく低下した患者に対し、他の者の臓器の全部または一部を移植する治療法のことです。ドナーの種別によって「死体臓器移植(心臓死臓器移植)」、「脳死臓器移植」、「生体臓器移植」の3種類に分けられます。

 

このうち脳死下の臓器提供を巡り、移植医療体制の見直しが行われようとしています。

 

今日2日、厚生労働省がまとめた移植医療体制改革の最終案が明らかになりました。案では、患者が移植施設を複数登録できることや、日本臓器移植ネットワーク(JOT)が担う業務の一部を、地域ごとに設置する新法人に移行することが盛り込まれました。

これらの改革の目的は、医療機関側の受け入れ態勢を理由に、脳死者から提供された臓器の移植を断念している問題を解決するためです。最終案は、5日に厚労省の臓器移植委員会に提示される見通しです。1997年に施行された臓器移植法は、2009年に一度大きく改正されました。今回はそれに続く大幅な見直しとなります。

 

日本心臓移植学会が2024年に行ったアンケート調査では、心臓の移植手術の実績がありアンケートに回答した全国11の医療機関で、受け入れ態勢を理由に移植を見送った事例は16件に上りました。理由としては、人員や病床の不足が挙げられています。

 

JOTによると、日本で臓器の移植を希望して待機している人は、およそ16,000人なのに対し、移植を受けられるのは年間およそ600人です。2023年は592人が移植を受けましたが、463人の方が待機中に亡くなっています。心臓移植に限っては、2024年5月時点で心臓の移植を待つ人が842人なのに対し、2023年に実施された心臓移植は115件、平均の待機期間は5年近くとなっています。

 

移植の優先順位は、親族、治療等の状況、年齢、血液型、待機期間などを考慮して、JOTが決定します。患者は、移植手術を希望する医療機関を1つしか選べません。特に心臓移植では、摘出から移植までにかけられる時間が4時間と、他の臓器よりも大幅に短くなっています。患者と医療機関の選定を速やかに行う必要があり、医療機関が受け入れ態勢を整えるのが難しい要因の一つでもあります。

移植の順番が来たとしても、手術を希望している医療機関が受け入れ態勢を理由に手術を見送ったため、別の医療機関のより優先順位の低い患者に移植されるケースがありました。今回の改革で患者が移植施設を複数登録できるようにすることで、第1希望の施設で人員や病床が不足しても、第2希望の施設で移植を受けられるようになります。

 

また、案では移植施設の複数登録とともに、JOTの業務の一部移行も盛り込まれています。これまでJOTが担っていたドナー家族への臓器提供の説明と同意の取得、臓器摘出手術の移行管理などを、新法人が担うことになります。業務の移行と新法人の地域ごとの設置によって、JOTの負担を軽減してドナー家族への対応の迅速化を図ります。

JOTは臓器提供の同意取得と移植患者の選定を一手に担っているため、脳死者の家族に対して、移植希望者と関係のある職員が強引な対応をする危険性がありました。実際に、アメリカでは提供の同意取得と移植患者の選定は別々の組織が行っています。

一方、これまでJOTが培ったノウハウの継承や、人材育成が課題となります。

 

臓器移植法は、1997年に制定されたのち、2009年の改正を経て現在に至ります。1997年法は提供者の自己決定権を手厚く保護するもので、15歳未満の者には同意能力がないため、小児の臓器移植は実施できませんでした。また、脳死を死とするかは本人や家族の選択にゆだねられていました。

 

2009年の改正を経て、脳死を死とすることを前提に、小児・成人ともに遺族の同意のみで臓器移植が可能になりました。また、提供者が事前に提供に同意しており、遺族も拒否していない場合や、提供者が生前に提供を拒否しておらず、遺族が提供に同意する場合に臓器提供が可能となっています。

臓器移植法の変遷を見てみると、提供数の増加を目的に法整備が進められているように感じられます。日本は他国と比較して臓器提供者が少なく、移植待機中に亡くなる患者を減らすための措置が急務です。実際に聖マリアンナ医科大学の2020年の研究によれば、人口100万人あたりの臓器提供者数は、アメリカが38.0人、スペインが37.4人、フランスが23.1人、イギリスが18.6人、オーストラリアが18人、ブラジルが15.8人、韓国が9.2人、中国が3.6人、そして日本は0.6人でした。

 

近年の医療技術の発展に伴い、治す医療から、治し支える医療に変わってきています。提供された臓器が、より移植を必要とする方に届くように。現在の状況に応じた医療体制の再構築が急がれます。

 

【参考記事】

2024年12月2日 読売新聞朝刊[東京14版]1面『移植病院「複数」希望可 待機患者受け入れ断念備え』関連記事30面

2024年10月23日 朝日新聞デジタル「緊急性の高い患者に心臓移植を 厚労省、優先順位の基準見直しへ」

2024年10月20日 読売新聞朝刊、1面「臓器移植 緊急度を重視 患者選定基準 心臓にも適用 厚労省見直しへ」

2024年9月19日 読売新聞デジタル「移植あっせん業務を分割、手術受ける施設を複数登録できる仕組み導入…厚労省が改革案提示」

2024年9月17日 読売新聞デジタル「厚労省、移植医療体制の大幅見直しへ改革案…希望者は手術病院の複数登録可能に・あっせんは複数機関で」

 

【参考資料】

NHK『移植見送り「体制が理由、なくさなければ」日本心臓移植学会』、最終閲覧日2024年12月2日

JOT「あっせん関連事業」、最終閲覧日2024年12月2日

JOT「移植と提供とは?」、最終閲覧日2024年12月2日

NETFLIX『Netflixシリーズ 「さよならのつづき」 ティーザー予告&アート、新キャスト一挙解禁!』、最終閲覧日2024年12月2日

NETFLIX『恋愛ドラマの新たな金字塔の誕生!有村架純 & 坂口健太郎 主演 /Netflixシリーズ「さよならのつづき」製作決定!』、最終閲覧日2024年12月2日