相次ぐ学費値上がり、増す負担感 ―政府の支援は

今年に入り私立大学のみならず国立・公立大学でも学費値上げの動きが広がっています。私の大学でも来年度から学費が改定され、増額されるようです。

ここ数年、肌感覚でも物価が高騰していて、大学の経営も厳しいことは理解できます。ただし、「大学教育」はすべての人に門戸が開かれるべきで、経済状況に左右されずに自由に学べる環境整備が必要だと考えます。それでは、一体なぜ大学の学費は上がり続けているのでしょうか。それに対して政府はどのような対策をとっているのでしょうか。現状と対策を探りました。

文部科学省が私立大学600校を対象に行った調査によれば、2023年度の私立大の授業料平均は、95万9205円となり21年度比で3%増えました。08年度は、約85万円でした。15年でほぼ10万円増額したことがわかります。

朝日新聞と河合塾が実施した調査によれば、来年度学費の増額(全学部または一部学部)を検討している私立大学は19%にのぼり、今後も上昇傾向が続くとみられます。入学定員が3000人を超える私立大学に限れば、48%の大学が25年度から値上げをすると回答しました。

国立大学の授業料は、文科省の省令で53万5800円と標準額が定められていますが、各大学の裁量で1.2倍つまり2割までは引き上げられます。すでに新聞、テレビ等で取り上げられている通り、東京大学は来年度の授業料を64万2960円とすることとしています。そのほかの国立大学でも近年授業料が引き上げられています。

こうした学費アップの背景には、なにがあるのでしょうか。短期的には、昨今の光熱費の上昇や物価高によって運営経費が増大し、大学の財政を圧迫していることが指摘できるでしょう。またデジタル化に伴う新規の設備投資、大学施設の老朽化に伴う建て替え費用なども考えられます。

「もう限界です」。国立大学協会は、今年6月に出した声明で窮状を訴えました。財務面の悪化が、優秀な人材の確保や質の高い研究・教育環境の実現を妨げるとしています。

そして、財政悪化の長期的な背景として挙げたのが、運営交付金の継続的な減少です。運営交付金とは、04年に国立大学が法人化されたことに伴い、国が国立大学に運営経費分を助成する制度のことです。しかし、この交付金は国家財政の悪化に伴い継続的に減額され、24年度の交付金は04年比で13%も減りました

悪化する大学財政と学費の値上がり。こうした状況に政府はどのような政策を行なっているのでしょうか。運営交付金に関しては、文科省が今年行った概算要求で3%増となる1兆1145億円を計上しています。

そのほかでは主に奨学金制度等を活用して支援しています。例えば、20年から開始した「就学支援新制度」では、世帯収入の条件などはありますが、給付型奨学金が拡充されています。さらに、来年度からは多子世帯(3人以上の子どもをもつ家庭)に対して、所得制限なしで授業料が無償化されます。

こうした制度はあっても依然として政府の支援は十分ではありません。OECDの調査によれば、高等教育における日本の家計の負担率は52%でOECD加盟国平均を大きく上回っています。

「天然資源に乏しい我が国にとって、最も重要なのは人材であり、社会と産業を動かす科学技術の進歩です」。国立大学協会の声明は、この文言から始まっています。社会の発展を促す人材を育成するのが大学です。政府には、大学の運営にかかる公費負担を増やし、教育・研究環境の充実を望みます。

<参考文献>

朝日新聞デジタル「学費値上げ、地方私大にも拡大 光熱費、物価、人件費高騰で支出増」2024年10月14日配信 

朝日新聞デジタル「減る交付金、あえぐ国立大 トイレ改修にCF・「20年で教員半減」 朝日新聞社アンケート」2024年4月8日配信

日経電子版「国立大学の授業料とは 2割まで引き上げ可能」2024年7月22日配信

日経電子版「国立大の運営費交付金、3%増を要求 文科省」2024年8月29日

日経電子版「大学費用、家計に重い日本」2022年10月4日配信

文部科学省「私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」

文部科学省「私立大学の初年度学生納付金等の推移」

文部科学省「高等教育の修学支援新制度」

参議院常任委員会調査室「国立大学法人運営費交付金の行方 ―「評価に基づく配分」をめぐって」

東京大学「授業料改定及び学生支援の拡充について」

大内裕和(武蔵大学教授)「国立大学「学費値上げ」をめぐる攻防 〜声を上げる地方・学生・大学教員」 

一般社団法人 国立大学協会理事会「国立大学協会声明―我が国の輝ける未来のために」