「DV被害者=女性」? 国際男性デーを通じて見える社会の実態

11月19日は世界国際男性デー(International Men’s Day)でした。男性・男の子の心身の健康に目を向け、ジェンダー平等を促すことを趣旨として、1999年にトリニダード・トバゴ共和国で始まったと言われています。

ジェンダー平等と聞くと、女性の社会的地位向上や「男は仕事、女は家庭」といったジェンダーロールを押し付けないことなど、思い浮かべることは様々あるでしょう。しかし、その多くが女性に目を向けられたものであると感じます。

確かに、日本のジェンダーギャップ指数は2024年現在、146カ国中118位となっています。0が完全不平等、1が完全平等を示し、統計が取られています。日本は政治参画0.118、経済参画0.568、健康0.973、教育0.993です。健康や教育では1に近い数値であるにも関わらず、全体の順位が低いのは政治や経済の分野で不平等の解消が進んでいないことを意味します。社会の中で少数者とみなされることが多い女性に焦点を当てることでジェンダーギャップ指数の改善に努めることができます。一方で、男性への差別は見えにくくなっています。

DV(配偶者からの暴力)の被害は女性に多く、支援も女性中心になりがちです。しかし、男性の被害者も存在しています。朝日新聞の1面と2面で、男性のDVについて書かれた記事がいくつか掲載されていました。

ある男性は結婚式の翌日から、妻の暴力が始まりました。顔を引っかく、菜箸で胸を刺すなどの身体的暴力、スマホに入っていた友人や同僚の連絡先を削除する、帰宅が遅れると罵倒するといった精神的暴力も受けていたそうです。家庭内でどこに「地雷」があるかわからない緊張感から寝られない日もあり、体重は10kg以上減りました。

結婚から1年が経ち、包丁を持ち出された時にはさすがにおかしいと思い、義母に相談することに。返ってきた言葉は「男なんだから我慢しなさい」。自分が悪いのだと思い込んでいました。

DV被害が2年ほど続いていましたが、ある日職場の同僚女性からDVの相談を受けたことが転機となります。相談に乗るうちに自分も同じ状況ではないかと気づきました。

自治体の配偶者暴力相談支援センターでは「あなたはDV被害者です」とはっきり言われました。しかし、家庭裁判所に離婚調停を申し立てた際には、「男性がDV被害を受けるなんて」と信じてもらえなかった事例もあります。後に妻が家に忍び込み、玄関にムカデやゴキブリの死骸を置いていった写真を見せると、調停委員の表情が変わったそうです。

男性はこの出来事に対して「当時の状況は『洗脳』に近かったと思う。『男だから強くなければいけない』という考えが、現実から目を背けさせた」と振り返っています。

立命館大学3年の男子学生は「もし自分がDVを受けたら、周囲の人に打ち明ける」と語っています。ただ、「自分の方が体格が良いからある程度耐えられる。どこからどこまでがDVかはわからないが、本当に酷くなってから警察に言うと思う」「男性側の方が判断しにくい」「警察に言っても女性が男性にDVをしたと言う事例が少ないと思うから、信じてもらえないかもしれない」と不安を口にしていました。

他の記事では、配偶者からの暴力を受けたことがあると回答した男性は22.0%、女性は27.0%と、それほど差はないと指摘しています。それにも関わらず、男性に対する相談支援は自治体だけでなく、民間でも不足しています。男性が被害を受けた場合、それがDVに当たると気づかなかったり、「男らしさ」の呪縛にとらわれたりして、相談に至らない場合も多いと報告されています。

また、支援団体に相談したとしても、男性というだけで加害者扱いされたり、「男性は受け付けません」と電話を切られたりすることもあります。被害者とわかっていても「できることはありません」と言われて終わりだったというケースもあるようです。

11月19日付の朝日新聞では、国際男性デーに関連して男性の視点から書かれた記事が多く掲載されていました。「DVの被害者=女性」と見られがちな背景には、女性は社会的弱者である、女性から男性に暴力を働くことはないなど、思い込みが関与していると思えます。性別で区分したイメージによって、男性が声を上げられず、本当に被害を受けているのは誰なのか見えにくくなっている社会構造が生まれます。

筆者はこれまで、ジェンダー平等と聞くと女性を対象にした社会問題だと受け止め、男性の視点から物事を考えられていなかったことに気づきました。今回は男性の視点からDV被害について考えました。3月8日には国際女性デーがやってきます。それぞれの記念日をきっかけに、多様な角度から社会について考えてみませんか。

参考記事:

19日付 朝日新聞朝刊(14版)1面 「妻の暴力DVと気づけず」

19日付 朝日新聞朝刊(14版)1面 「きょう国際男性デー」

19日付 朝日新聞朝刊(14版)2面 「支援体制『20年前のまま』」

19日付 朝日新聞朝刊(14版)2面 「お金使えず・殴られても『夫婦げんか』」

参考資料:

独立行政法人 国立女性教育会館 「11月19日は国際男性デーです」https://www.nwec.go.jp/news/internationalmensday2024.html

内閣府男女共同参画局 「男女共同参画に関する国際的な指数」https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html