被害を受けた子どもを保護・支援するCACとは

近年、子どもが被害者となる事件をよく目にします。
子ども家庭庁によると、令和4年度中に全国232か所の児童相談所で児童虐待相談として対応した件数は21万9170件と過去最多となっています。家庭内での虐待に限らず、立場や力を悪用した大人が、逆らえない状態の子どもに暴力を振るうだけでなく、被害当時は被害を受けたという認識が薄く、成長してから性被害に遭っていたと気づくケースも多々あります。

旧ジャニーズ事務所の性加害問題がありました。また、2017年に静岡県で明らかになった事件では、12歳の女の子が父親から2年間ほど性被害を受けており、起訴されたものの一審では証拠不十分として無罪になったという事例もあります。二審では子どもに負担をかけずに正確な話を聞く「司法面接」の結果が重視され、一転して有罪判決となりましたが、子どもの証言にどこまでの証拠能力が認められるかはまだまだ明確ではありません。

国内での民事事件における証言については、「証人となりうる資格について年齢・能力による制限はない」(外務省ホームページより)とされています。一方、刑事事件については、「刑事訴訟法上明文の定めはないが、裁判例においては、年齢によって決まるのではなく、具体的事件における状況を前提として、個別的具体的に判断して決すべきもの」で、「その判断に際しては証言を求められている事項が何であるかも大きな要素であるとした上、強制わいせつ致傷事件において、被害時3歳6月、証言時3歳8月の被害児童の証言に証拠能力を認めたもの(東地判48.11.14判時723.24)等がある」(同)とされています。

現行の法制度では、年齢による制限は定められていないものの、子どもの記憶は曖昧であるかもしれないことや、事情聴取の際に誘導されたかもしれないなどといった理由等から証拠能力が乏しいと判断されるケースが少なくありません。

子どもの言うことは信用できない、証拠能力がない。これは果たして本当なのでしょうか。小さな体では抱えきれない苦しみや恐怖を、勇気を振り絞って打ち明けたのにも関わらず、加害者を不起訴処分にしてしまうようでは、子供の証言は認められないという理由から、児童への犯罪を助長する恐れもあります。

そこで今回は、性暴力を受けた幼い子どもを司法の側面から支援するCACについてご紹介します。

子どもの権利擁護センター(Children’s Advocacy Center)を指し、「子どもが虐待・ネグレクトなどの人権侵害を受けたり、DVや犯罪を目撃したりして、子どもから事情を聴かなければならない場合に、その子どもがそこに行けば、調査・捜査のための面接(司法面接)と全身の診察を受けられるワン・ストップ・センター」(チャイルドファーストジャパンホームページより)とされます。
また、「CACは性虐待などの被害を受けた子どもに専門的な心理ケアを提供したり、子どもが警察署や地方検察庁、裁判所などに行かなければならないときに同行して子どもと非加害親をサポートするアドボケイトを派遣したりします」(同)

CAC発祥の地であるアメリカには現在960ヶ所以上あるとされており、そのうちの約7割が民間で運営されています。しかし、日本にはまだ2ヶ所、「CACかながわ」と「NPO法人子ども支援センターつなっぐ」しかありません。このうちCACかながわでは、2015年の開設以来、性的、身体的虐待を受けた子どもを83人受け入れてきたそうです。

アメリカでは、警察や児童相談所が性被害や虐待などの通報を受けるとすぐにCACに子どもを連れていきます。各機関が連携して、被害に遭った子どもを迅速に保護、支援する体制が確立しているアメリカに対して、日本ではまだまだ基盤が整っていないと筆者は感じます。

CACのもとで行われる司法面接や全身診察は、検察や医療機関と連携し、被害を受けた子どもに対して細心の注意を払ったストレスの少ない環境下で進められます。また、心のケアもしっかりと行われるので、心身ともに子どもの負担を軽減することができます。

そうしたCACが日本で普及していない理由としては、主に運営や新設の費用の問題が挙げられます。専門家からは、各地域の拠点病院の中にCACを設置することが提案されていますが、実現の目途は立っていません。今後CACを増やしていくためには、財政面の支援が必要でしょう。

日本で起きた虐待のうち、性虐待は約1%とされており、この数字は一見低いように感じるかもしれません。しかし、数字が低い背景には、開示が不十分なことや、打ち明けられない子どもが存在するといった理由があります。

日本でもCACが普及し、支援や保護の体制が整うことで、被害を打ち明けられる子どもが多くなり、加害者が有罪となる事例が増えることが見込まれます。被害にあった子どもたちが一人でも多く救われるような社会の実現のために、多くの地域に設置されるようになることを願っています。

参考文献
・外務省 国内法における最低法定年齢
・チャイルドファーストジャパン 心身のケアまでをワンストップで行う子どもの権利擁護センター「CACかながわ」の取り組み 
・子ども家庭庁 令和4年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値) 

参考記事
・2024/8/15付 朝日新聞デジタル 性暴力を受けた子の回復のために 整備求められる拠点「CAC」とは

・2024/3/13付 中日新聞web 性被害に遭った子ども守る面接施設 CACが国内に2カ所 増設へ国の補助求める

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