最近、「熊」や「鹿」などの野生動物が市街地に現れることが増えており、報道で耳にすることが多いのではないでしょうか。紅葉シーズンで山へと足を運ぶ人が多くなっていますが、これまでなら山で暮らしたはずの動物たちが下界に出没して私たちの生活を脅かす事態になっています。なぜこうした野生動物の市街地出現が近年増えているのでしょうか。環境省が21年にまとめた資料によれば、原因は以下の5つと指摘されています。
①積雪量の減少
②造林や草地造成などによる餌となる植生の増加
③中山間地域の過疎化に伴う耕作放棄の増加による生息適地の拡大
④狩猟者の減少
⑤生息数の回復に対応した捕獲規制の見直しの遅れ(例:07年までメスジカは禁猟)
つまり、地球温暖化や、国内で深刻化している人口減少が一因となっています。また、狩猟者の減少は顕著で、1975年で約52万人いたのが、2020年では約22万人と約6割も減っています。二ホンジカやイノシシなど野生動物の生息域が広がり、個体数の増加が懸念される一方で、全国の狩猟免許の所持者は60歳以上が大半を占めており、後継者不足への対応が喫緊の課題になっています。
では、野生動物の増加や人里に進出してくることで、生じる問題とは何でしょうか。「人への被害」と「自然への被害」の両面で問題が生じると考えます。
まず、「人への被害」の一例として、先月、京都府の田んぼで作業をしていた男性がシカに襲われ、亡くなったと報道されました。また、農林業への被害も大きく、22年度の環境省調査によれば、二ホンジカで約65億円、イノシシで約36億円など計156億円の農作物被害が起きています。
次に、「自然への被害」ですが、「自然公園への被害による生態系の崩壊」や「日本の希少種への影響」などが環境省の調査によってわかっています。二ホンジカが高山帯へと現れ、お花畑や植物を食べつくし、土砂崩れといった斜面崩壊の危険度が増している事例や、ニホンカモシカのような希少動物の餌となる植物を食べてしまい、生態系が危機にさらされている事例も報告されています。
こうした被害が拡大する中、行政ではさまざまな対策を実施しています。例えば、国からの市町村への特別交付税として、柵や罠などの駆除等経費や啓発活動の広報費、有害鳥獣を効果的に駆除する研究費が交付されているほか、都道府県にも似たような特別交付税が出されています。また、「農作物野生鳥獣被害対策アドバイザー登録制度」や「ジビエハンター育成研修制度」などが制定され、人員の拡大を図っています。
野生動物による被害を見ると、駆除してほしいという声が大きいのは理解できます。しかしこうした動物も生態系における重要な要素であり、共存への道も考えていかなければなりません。日本野鳥の会は、野生動物の進出に対して『保護』と『管理』を分けるのではなく、この二つを一体として考え、個体数などの適切な把握に努めることが重要であるとしています。03年に日本ではトキが一度国内で絶滅しました。その一因として、人間の活動の影響があったとされています。農業の効率化を図るために、化学肥料や農薬を使った結果、トキの餌が減少し、絶滅してしまったのです。このように、人間の進歩が時に大切なものを失わせることもあります。野生動物を駆除という固定概念にとらわれるのではなく、狩猟する現場の人たちや自然保護に携わる人からの意見を大事にし、個体数の維持や持続可能な解決策を見出すことが、共存のために必要不可欠であると考えます。
【参考記事】
5日付 日経新聞 朝刊 12版(社会)「秋の雄ジカにご用心 発情期、人襲い死亡事故も」
【参考資料】
農林水産省「鳥獣被害の現状と対策(最終閲覧日:24年11月06日)」
「自治体担当者向け鳥獣被害対策マニュアル(最終閲覧日:24年11月06日)」
環境省「いま、獲らなければならない理由(最終閲覧日:24年11月06日)」