スマートフォンを開いてアプリを立ち上げ、地図を見ながらポートへ。アプリから鍵を開錠。そのまま乗って目的地に。ここ数年、東京都心では自転車をレンタルできるシェアサイクルの利便性が向上し、普及が拡大しています。街中を歩いてみるとシェアサイクルを止めておく駐輪場「サイクルポート」をすぐに見つけることができます。
▪️シェアサイクルとは
シェアサイクルは、「相互利用可能な複数のサイクルポートが設置された、面的な都市交通に供されるシステム」と国土交通省によって定義されています。都市の中に自転車を貸出・返却できるポートがいくつも散らばり、自由にレンタルできる利便性が特徴です。
類似のものに「レンタサイクル」がありますが、こちらは貸出場所と返却場所が同じことが多く、乗り捨てができません。出発場所に戻ってくる必要があり、不便なことも多いようです。シェアサイクルは、出発地と目的地が異なっていても、ポートさえあれば返せるので、自由な移動ができる便利さが注目され、人気を集めています。
▪️現状は
このサービスは、東京都心にとどまりません。国交省によれば、全国305都市がシェアサイクルサービスを導入しています(2022年時点)。14年には75都市だったことと比べると急拡大していることがわかります。
東京都の資料によれば、都内11区(千代田区・中央区・港区・新宿区・文京区・江東区・品川区・目黒区・大田区・渋谷区・中野区)には870箇所のポートが設置されています。ポート数に限れば、ロンドン(840)やニューヨーク(750)よりも多く東京は世界有数のシェアサイクル都市と言えるでしょう。
ただし、その密度に着目すると様子は一変します。1平方㎞あたりのポート数を比較すると、都内11区で3.6なのに対してロンドンは7.6、ニューヨークは5.8と密度では他の大都市に劣るようです。
▪️導入拡大の背景
とはいえ、いまや多くの人々がシェアサイクルを利用しています。なぜここまで導入が拡大したのでしょうか。国交省がシェアサイクル利用者に対して行なったアンケートによれば、ポートが近いことやいつでも・どこでも乗れるという利便性が利用を促進しているようです。
NTTドコモが運営するドコモ・バイクシェアは、16年に東京都内の4区(千代田区、中央区、港区、江東区)で相互利用を可能にし、領域をまたいで利用できるような制度を構築しました。これを契機に相互利用が拡大。ポート数の増加へ繋がりました。ポート数が増加することでさらに使いやすくなる好循環もあり、利用者が増えたようです。
国・自治体の後押しもあります。シェアサイクルは、「公共性を有する交通手段」と位置付けられ、地域交通の一翼を担う存在として期待されています。例えば、横浜市は20年に「自転車活用推進計画」を策定し、民間事業者と協力しながらサイクルポートの拡充などを進めるとしています。
また、移動が容易に手軽にできることから観光促進の手段としても注目されています。最寄り駅から遠く、アクセスが課題となっている観光地でもシェアサイクルを使うことで気軽に立ち寄ることができるため、経済効果が期待できます。
▪️今後の課題は
公共性の高い交通手段として注目されますが、その採算性が課題です。シェアサイクルは、自転車の購入やアプリの開発、サイクルポートの設置など初期投資に莫大のお金がかかる事業です。一方で、利用者は30分100円程度の料金で自転車をレンタルできます。単価が低いため、利益が出にくいようです。
こうしたことから、多くの自治体は補助金などを用いて民間事業者にシェアサイクル事業へ参入するよう促しています。ただし、役所主導では限界があることから、継続して利益を出せるようなビジネスモデルを確立できるのか。それが今後の課題となるでしょう。
<参考資料>
2024年6月4日朝日新聞朝刊 東京都・地域総合面「(数字は語る)366都市 シェアサイクルの導入 広域乗り入れ、普及後押し」
国土交通省「シェアサイクル事業の導入・運営のためのガイドライン」