「教育の無償化」という言葉をここ数日よく耳にするようになりました。明日に投票日を控えた選挙の争点の一つになっている影響もあるでしょう。大学の進学率は上昇し、「高等教育」を受ける割合は、現在8割の時代になっています。しかし、一方で問題となるのが、養育費や教育費といった負担の大きさです。子ども一人にかかる教育費は、すべて私立で進学する場合には計2246万円、すべて公立(大学は国立)であっても817万円と推計されており、家庭にとってはかなり大きな負担であるといえます。
各自治体や企業では、こうした学費の負担を軽減するために様々な取り組みを実施しています。例えば、横浜市であれば幼児教育・保育の無償化を実施しており、東京都は先月下旬、「奨学金返還支援企業とのマッチングイベント」と題したイベントを実施しました。大学生の半数が借りているとされる奨学金を返済する際の負担を軽減する企業を紹介するものです。民間企業は日本学生支援機構に直接返済する「奨学金返還支援(代理返還)制度」といった新制度に参加し始めています。学生支援や人材確保だけでなく、一定の要件を満たせば法人税の税額控除の適用を受けられる利点もあってか、その数は23年の8月時点で1000社を突破しています。
今回の選挙でも、多くの政党が教育の無償化や負担軽減を公約として掲げています。筆者自身も、授業料の負担が少しでも改善されていけば、大学に通うことのできる若者が増えるのではないかと期待しています。
ただ、教育の無償化は慎重に議論を行うべきであるという意見もあります。無償化と聞くと、聞こえがいい施策ではありますが、懸念されているのが「教育の質」です。無償化によって質の低下につながる可能性があるのではないかと指摘されているからです。例えば、無償化に伴い、児童数や学生数が増加することによって、人手不足である教育の現場で、教員ひとり当たりの負担が増加するといった懸念が挙げられます。さらに、無償化の財源の確保をどうするかという問題もあります。最終的にしわ寄せがくるのは国民であり、増税など何らかの形でさらなる負担が乗せられては本末転倒という意見もあります。
文科省などの試算では、教育を無償化する場合は、年間数兆円が必要になると考えられています。国内の経済状況や少子化が進む中での、予算確保は容易ではないように思います。教育の無償化は効果と副作用の両面があり、簡単には結論が出ない課題です。それだけに今後の議論の行方を注目していきたいと思います。
【参考記事】
24日付 読売新聞 朝刊 社会(13版)「子育て・学費 家計浸食(課題の現場‐衆院選24)」
25日付 読売新聞 朝刊 くらし(12版)「子育て費用 裁量次第で変化」
25日付 朝日新聞デジタル 「『教育を無償に』と言うけれど 日本の奨学金制度が抱える3つの課題」
23年5月26日 朝日新聞デジタル「『教育の質、低下しかねない』高校授業料『完全無償化』に懸念の声」
23年11月9日 日経ビジネス 「社員の奨学金を肩代わり、1000社超す 人材確保に新手」
【参考資料】