続く薬の供給不足

▪️「薬がない… 」

「在庫がないので、同じような成分の薬をお渡しします」。先日、風邪で病院を受診し、薬局で処方箋を出した時に言われた言葉です。今年3月にも同じような症状で医者にかかり、薬局へ行った際にも同様のことを言われました。処方箋なので、薬を変更する場合は、再度病院に電話をかけ医師の許可を得ることが必要となります。こうなると通常より手続きが煩雑になり、待ち時間も長くなりました。

▪️止まらない供給不足

薬の供給不足が止まりません。日本製薬団体連合会の調査によると先月の全品目のうち約3割が供給停止などを含む「通常出荷以外」となっています。前月から0.8%改善したとされますが、2021年に薬不足が起きてから大きな改善は見られず、長期化しています。

▪️薬不足なぜ長期化?

一体なぜここまで長く薬の供給不足が続いているのでしょうか。きっかけは、21年ごろから相次いで発覚した製薬メーカーの不正問題でした。定められた内容と異なる成分が後発薬に混入していたり、通常の手順を踏まずに製造を行なっていたりなどの問題が相次いで明らかになりました。厚生労働省は業務停止命令などの処分に踏み切り、製薬メーカーへの査察などを強化。会社側も自主点検をした結果、さらなる不正が発覚して製造が停止するなどの事態になりました。

薬の原料となる物質を海外に依存していたことも要因の一つとされています。例えば、抗菌剤の一種βラクタム系抗菌薬の原材料となる物質は国内で製造しておらず、中国に100%依存しています。海外からの輸入が滞れば、国内での供給不足が発生します。実際、19年には、抗生物質の一種「セファゾリン」の原材料が、海外企業での異物混入などにより供給できなくなりました。

▪️政府の対応は?

厚労省は特に不足している咳止め薬などについて薬局同士で連携をとり在庫を調整するよう要請しています。また、医師が必要と判断した患者に対しても、最少日数での薬の処方を呼びかけています。さらに、薬の在庫情報を一括して閲覧できるシステムを27年度までに構築する予定です。これにより、将来の需要予測を薬局が正確につかめるようになれば、特定の薬へ発注が集中するのが防げます。

▪️安心できる医療には薬の安定供給が不可欠

風邪を引いた時や怪我をした時、すぐに街のクリニックを受診できる日本の医療制度は人々の健康な毎日を後押ししています。しかし、冒頭のように薬局で在庫がないと言われると不安が募ります。早めに在庫を確保した方が良いのではないかという心理から、不足が加速する可能性もあります。政府には、受け身の対応にとどまらず、製薬メーカーに対して財政支援をするなど実のある対策を望みます。

<参考文献>

朝日新聞「(記者解説)薬不足解消の処方箋は 後発薬促すなら、業界の構造にメスを 藤谷和広、富田洸平」2024年05月20日

日本経済新聞「薬の在庫把握、厚労省がシステム開発へ 供給不安に対応」2024年7月17日

NHK「【詳しく】製薬会社の行政処分相次ぐ メーカーに何が?(更新)」

厚生労働省「第7回医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」

ニッセイ基礎研究所「原薬の海外依存リスク-リスク軽減のために何をすべきか?」

厚生労働省「セファゾリンの供給低下について」

厚生労働省「鎮咳薬(咳止め)・去痰薬の在庫逼迫に伴う協力依頼」