地域の利益、住民の思い? 大規模開発がもたらす対立の最適解は

「ダムを1つ建設するのに、村一つ丸々沈められちゃうの…?」

小学校4年生の頃、川口雅幸著「虹色ほたる 永遠の夏休み」を読んで最も驚いたことの一つでした。この小説の舞台は30年ほど前の村。主人公はダム建設が始まる直前にタイムスリップし、当たり前に見ているダムがなかった最後の夏を当時の住民と一緒に過ごすという筋書きです。

現代では、「一生のお願い」がさほど重要な意味を持たないことのほうが多いですが、この時代では、「一生のお願い」が本当にそのままの意味として使われることも印象的でした。携帯電話もない時代、村が沈められて、友達と離れ離れになれば、もう二度と会えないということが分かっていたのでしょう。住民たちが涙ながらにどんどん村を離れていく描写に辛くなったことが忘れられません。

大学生になって、改めてこの小説を振り返ると、あまりにも無惨だなと思ってしまいます。タイムスリップした村の住民はほとんどが、小学生かおばあちゃん、おじいちゃん。ダム建設が理解できぬまま、村を離れることだけを強いられる小学生。長年住んで愛着のある村を離れなければならない高齢者。必死に行政に反対しても届かなかったことに、私だったら憤りを感じてしまうと思います。

 しかし、大規模な開発にはこういった、行政や企業と、利害関係者の間での意見の対立は避けられないのではないかと思います。例えば、静岡県のリニアモーターカーの建設。県とJR東海での対立が今も続いています。また、12日付の日本経済新聞の朝刊の記事、「北関東・埼玉が工場誘致を競う、東京圏近く災害少なさ優位」にあるように、埼玉県などが工場誘致をしています。では近隣住民からの、騒音などの反対の声はないのでしょうか。気になります。

 どちらが正解、ということは一概には言えないと考えます。大規模な開発や工場誘致をすることで、地域経済が潤うことは大いにありますし、自分が住んでいた環境がいきなり変わってしまう怖さも分かるからです。だからこそ、しっかりとした話し合いを続け、妥協案、折衷案を考えていくことが大切なのではないかと思います。

<参考記事>

12日付日本経済新聞朝刊「北関東・埼玉が工場誘致を競う、東京圏近く災害少なさ優位」

<参考資料>

東洋経済オンライン 大坂直樹 「リニアでJR東海と対立、静岡県の「本当の狙い」水資源問題で工事認めず、『代償』は空港駅?」2019-07-08(https://toyokeizai.net/articles/-/290647

最終閲覧 2024/10/15