今月1日、自民党の石破茂新総裁が臨時国会で第102代首相に選出され、新内閣が発足しました。
新政権には、地政学的リスクの高まりや経済の低迷、少子高齢化といった様々な課題に的確に対処できる布陣が求められます。
難題に直面する日本の行方を左右する閣僚人事について、ガバナンスの観点から考察します。
◯適材適所か、内輪の論理か
閣僚人事について評価する際、与党からはよく「適材適所」の人事であるといった説明がなされます。一方、「入閣待機組の在庫一掃」や「派閥の論理」を優先しているといった批判も多く見られます。
難題が山積する中、閣僚には高いスキルが求められます。「適材適所である」といった説明だけでは国民を納得させるには不十分と言えるでしょう。
それぞれのポストにはどのような能力が求められるかを示し、登用した人物がその条件を満たすスキルや経験を持ち合わせているということを丁寧に説明する必要があるのではないでしょうか。
◯ガバメントにもガバナンスを
閣僚の人事の透明性を上げるにあたり参考になると思われるのが上場企業のガバナンス(統治)向上への取り組みです。
東京証券取引所が企業統治実現のための主要な原則をまとめた「コーポレートガバナンス・コード」には、取締役会の実効性確保に関連して以下のような規定があります。
【コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-11①】
取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。(後略)
「会社」を「政府」に置き換えれば、「取締役会」は「内閣」、「経営戦略」は政権の「基本方針」といったところでしょうか。
以上のようなガバナンスの観点を踏まえると、閣僚人事について説明責任を果たすためにも、どのような政策に重点を置き、その推進のためにどのような人材が必要であり、どのようなスキルを持った人物を起用したのか、首相は丁寧に説明することを求められるでしょう。
◯開示方法
具体的にはどのような開示方法が考えられるでしょうか。
引用文で言及されている「スキル・マトリックス」は有効な手段の一つであると筆者は考えています。
取締役会の各構成員の知識や経験、能力などを一覧化したものであり、下表のような形で提示されます。
また、マトリックスに加え、各人の知識や能力の背景にある経歴を併せて示すことも重要でしょう。
組閣にあたりこのような情報を示し、国民に判断材料を与えることは、内閣への信頼を確保する上でも重要になってくるでしょう。
開示が形式的なものに終われば有効に機能しない恐れはあるでしょう。実際に、一部の企業に対しても当たり障りのない情報開示に終始しているとの批判があります。
しかし、不完全な開示であっても、国民はそれを批判の材料にして人事における透明性の強化を求めていくことは可能でしょう。開示を起点にガバナンス向上のためのPDCAサイクルを回していくことが重要なのです。
政府・与党には、閣僚人事の透明性向上のため、国民に客観的な判断材料の提供を求めたいものです。
参考記事:
10月2日付 朝日新聞朝刊1面「石破内閣発足 戦後最短で解散・総選挙へ 地位協定改定に意欲」
10月2日付 読売新聞朝刊1面「石破内閣発足 防災・地方創生注力 初入閣13人、女性2人」
10月1日付 読売新聞朝刊4面(政治)「閣僚・党人事 旧岸田派・旧森山派を厚遇 旧茂木派・旧安部派起用わずか」
参考資料:
株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード(2021年6月版)」
鈴木紀子・宮地真紀子・原山真紀『アクティビスト対応の実務』(中央経済社、2024年)