対応の摩擦が生む、カスハラの連鎖

先日、初めての場所を訪れる機会があり、久しぶりにバスを利用しました。目的地に停まるか不安だったため、運転手に「○○には行きますか?」と丁寧に確認したら、予想もしない冷たい返答がかえってきました。

「はぁ??○○行きだけど!」という威圧的な態度に、驚きを隠せない筆者。こちらは慎重に言葉を選んだつもりでしたが、こんな言葉遣いと態度で返されるとは戸惑うばかりでした。

こうした経験は、私だけではありません。日経新聞の「春秋」にも、企業側の対応に対して批判的なコラムが書かれていました。エアコンが故障し、お客様相談センターに連絡した筆者は、たらい回しにされた末に『対応できません』と言われ、また最初からやり直しになったという内容です。

このような企業対応で、顧客が不満を募らせ、強硬なクレームやトラブルへとつながることがあるのではないでしょうか。

昨今、『カスタムーハラスメント(カスハラ)』という言葉が注目されています。東京都の資料によると、顧客等から就業者に対する、著しい迷惑行為であり、就業環境を害するものであるという定義がされているそうです。こうしたカスハラに対応するため、都では、先日全国初の条例制定に乗り出し、年内に具体事例をまとめ事業者に示し実効性を確認する方向です。また大企業でもAIなどを取り入れ、問題解決に取り組んでいます。

しかし、どこからどこまでが、正当なクレームとカスハラとして認定されるのでしょうか。何か問題があった際に、顧客が企業側に対して、少しでも厳しい意見を言ったらカスハラとされてしまい、まったくものを言えなくなってしまうのではないかという懸念も残ります。加えて、先述した「春秋」のように、企業側に丁寧にお願いして、対応してもらえる希望を持たせたうえ、結果的に門前払いとなることで顧客のフラストレーションが一段と高まるケースもあります。企業側がこうした対応を続けることが、逆にカスハラを誘発していることはないでしょうか。

「表向き丁重、でも本質において人を疎外するこのシステムは何だろう」(6月30日付春秋)。この一文が、今のカスハラの現状を表していると筆者は思います。

実際、カスハラは、顧客側の問題が多いのは事実です。そうした中、企業側と顧客側の行き違いを改善しなければ、カスハラはなくなりません。課題解決に向けては、マニュアルに加えて、企業と顧客の考えを擦り合わせ、双方の理解を深めていくことに解決への糸口があるのではないでしょうか。

 

【参考記事】

6月30日付 日本経済新聞 朝刊 「春秋」

5日付 日経新聞 朝刊 (12版)5面「初のカスハラ条例成立 東京都、来年4月施行」

5日付 読売新聞 朝刊 1面(関連面‐32面) 「 都、カスハラ防止条例 全国初」

9月25日付 読売新聞 朝刊(13版(栃木))23面「カスハラ 企業17%が被害 直近1年『企業対企業でも根深く』」

5日付 朝日新聞 朝刊 1面(関連面‐35面) 「カスハラ防止 全国初の条例 東京都罰則なし」

9月25日付 朝日新聞デジタル 「相談窓口や対応ポリシー ポラス、しまむらなどで進むカスハラ対策」

【参考資料】

東京都 産業労働局 「東京都カスタマーハラスメント防止条例(仮称)の基本的な考え方(令和6年7月)」