今年6月、植民地主義の肯定にあたるなどとして批判が集まり、人気ロックバンド Mrs.GREEN APPLE の新曲「コロンブス」のミュージックビデオが公開停止になりました。所属レコード会社のユニバーサルミュージックが公開停止にした映像では、主人公コロンブスを英雄視し、島に住む人々を「文明を教わる側のサル」として描いています。かつては、コロンブスを「新大陸発見の偉人」とする見方がありました。しかし現在では、植民地主義の象徴として捉えられており、南北アメリカの侵略者の一人だと見なされています。なにも西洋人がアメリカ大陸を「発見」する以前から、先住民族は生活を営み、独自の社会・文化を築いてきたのです。
公開停止になった「コロンブス」MVの一場面(公式YouTubeより)=日本経済新聞より引用
大学入学後、歴史学や文化人類学を学ぶにつれて、それまでの西洋中心史観を問いただす姿勢が身に付きました。そのため、スペインに留学し、西洋中心的なものの見方がいまだに残っていることを目の当たりにした際には、大きな衝撃を受けました。日本の芸術大学では「西洋美術史」とされていた科目は、スペインでは「美術史」と呼ばれていました。バルセロナには、1888年の万国博覧会のために建てられたコロンブス記念碑があります。バルセロナ観光局のウェブサイト visit Barcelona では、この記念碑が紹介されていますが、コロンブス(スペイン語ではコロン)は「発見者」と表現され(括弧付きですらない)、侵略の歴史については一言も触れられていません。
アメリカを指差すコロンブス像(23年12月29日筆者撮影)
コロンビア人の友人はその塔を見て、「彼のせいで多くの先住民族が虐殺されたんだ」とつぶやきました。先住民族と黒人を祖先に持つ友人が放った言葉を聞き、この歴史はただの過去の事象ではないのだとはっとさせられました。ラテンアメリカの人々にとって、コロンブスは「発見者」ではなく、先住民族虐殺や黒人奴隷貿易をもたらした「征服者」なのです。また、留学中に何度も差別的な言葉を投げられた私からすれば、なぜ新曲「コロンブス」のミュージックビデオで西洋人に扮したのだろうかと疑問に思うばかりです。もちろん植民地主義や人種差別に加担しようという意図はなかったのでしょうが。
日本は、アジア諸国に対する植民地を支配してきた負の歴史をもちます。だからこそ、私たちは世界の歴史ひいては歴史観を学ぶ必要があります。歴史はただ過去の事象を羅列したものではありません。ロシアのウクライナ侵攻、ガザ戦闘のような現在まで続く問題と深く結びついているのです。西洋中心史観から離れ、様々な視点から歴史を見つめ直す作業が求められます。
参考記事:
7月21日付 ハプスブルクが「諸民族の牢獄」は本当? 歴史総合にも通じる帝国論:朝日新聞デジタル (asahi.com)
6月21日付 歴史と表現「タブー化せず議論を」 ミセス「コロンブス」MV問題 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
6月15日付 負の歴史と結びついた「コロンブス」 ミセスMV問題、今と地続き:朝日新聞デジタル (asahi.com)