24年7月7日付の朝日新聞の記事によると、カンボジアでの地雷除去を支援してきた日本がウクライナの関係機関の研修をカンボジアで行うことを表明しました。近頃、あまり真正面から報じられることのないカンボジアですが、その人々の暮らしには学ぶことがたくさんありました。今回の記事では、貧困や危険というイメージが残るカンボジアについて、現地での生活を通して感じたことを述べていきたいと思います。
筆者は、去年の8月にカンボジアを訪れました。事前に、現地の方と連絡を取ったことで、コンポントム州にあるプラサットサンボー郡という村でのホームステイに参加することができました。まずは、カンボジアの歴史と現状について簡単にご紹介します。
・カンボジアの歴史と現状
カンボジアの面積は日本の2分の1ほどで、人口は約1690万人となっています。少し歴史を遡ると、1800年代にはフランス領でしたが、第二次世界大戦中の日本軍による占領などを経て、1953年にフランスからの完全独立を果たしました。
しかし、1970年代には、内戦やクーデター、またポル・ポト政権による知識人や富裕層などの大量虐殺が行われるなど多くの悲惨な歴史があり、国際社会の関心を集める国の一つでした。
世界銀行の発表によると、現在のカンボジア経済は著しい発展を遂げ、貧困率も減少しているそうです。2007年のカンボジアの貧困率は47.8%でしたが、14年には13.5%に下がっています。また、15年には「低所得国」を抜け出し、「低中所得国」の仲間入りを果たしました。
しかし、2022年に国連開発計画が発表した人間開発報告書によると、カンボジアのHDIは0.60(1に近いほど開発度が高い)で、193ヵ国中148位でした。この指数は、経済成長だけではなく、保健・教育・所得の観点から貧困の度合いを測るものです。そのため、単なる経済力のみならず、その国で暮らす人々の生活の発展度を示しています。この数値を見る限りでは、まだまだ国民の生活は不安定なことがわかります。
経済面では成長を遂げているカンボジアですが、開発途上国の中でも特に貧しいとされる後発開発途上国47カ国のリストに入っています。
カンボジアのHDIが低い要因としては、地域格差が挙げられています。筆者も、首都プノンペンなどでの暮らしはかなり改善傾向にあると感じましたが、コンポントムなどでの暮らしはまだまだ貧しいと感じました。
急成長を遂げながらも、まだ厳しい貧困からは抜け出せていないカンボジアの村での暮らしはどのようなものなのでしょうか。
・村での生活の様子
首都プノンペンから車で約4時間、遠く離れたコンポントム州の街並みは、都会とは大きく異なっていました。村のすぐ近くにはジャングルや遺跡があり、非常に神秘的な景観が広がっていました。さらに、空が日本では見られないほど青く澄んでおり、動植物がのびのびと育っていました。
村の街並み(2023年8月22日筆者撮影)
宿泊した村には電波が無いため、携帯は使えず、テレビもありませんでした。生活水も、貯水タンク分しか使用できないため、一人一人が節水を心がけていました。食料については、家畜小屋で主に牛、鶏などを飼育しており、不足分は近所の市場で購入していました。ガソリンを路上の販売所で購入している様子が特に印象的でした。
筆者が宿泊した家の外観(2023年8月22日、筆者撮影)
ホストファミリーは一日中ハンモックに揺られながら、ラジオを聴いたり、近所の方たちと談笑をしたりしながら過ごしていました。そこに住む子供たちも学校へは行かず、庭でスポーツをしたり、両親と遊んだりと1日の大半を家で過ごしていました。暮らしに追われる様子は無く、生活を送るために必要最低限な仕事をしているといった印象を受け、これも都心の暮らしとは大きく異なっていました。
ガイドに案内されて向かった湖では、数十頭ほどの水牛の群れを率いた少年や、農作業をしている子供が多く見られました。ガイドいわく、学校に行かずに親の手伝いをしている子供たちが多く、やはり教育面でも地域格差が生じているそうです。
水牛の群れを率いる少年たち(2023年8月22日筆者撮影)
幼い頃から、あらゆるものを与えられてきた筆者にとって、他者と力を合わせながら生活をしている彼らには非常に感銘を受けました。今回のホームステイを通し、授業や動画では学ぶことのできない、現地の暮らしの過酷さや彼らの生活の様子を肌で感じる事ができました。
・最後に
悲惨な歴史を持ち、貧困に喘ぐ中でも、そこで暮らす人々は笑顔で、優しさに溢れていました。
現地に赴く前までは、カンボジアは治安が悪く、貧しい暮らしをしているのだろうと考えていました。しかし、ホームステイを通して、多くの人々と関わる中で、限られたものしかなくても幸せな生活を送っている人がたくさんいるということを知ることができました。
また、この経験を通して、現地に赴き、自分の目で見て学ぶことの大切さを知ることができました。さらに、今後はボランティアなどを通して現地の生活に少しでも貢献していきたいと考えています。
みなさんもぜひ、学内で学びを終わらせるのでは無く、自分の足で行動し、学びと支援の一歩を踏み出してみては。
・参考文献
国際協力NGO ワールド・ビジョン・ジャパン
Global Note 人間開発指数(HDI)国別ランキング 推移
・参考記事
2023/7/25付 朝日新聞デジタル (社説)カンボジア 民主主義の衰えを憂う