たち消えた「9月入学」導入案 議論はどこへ

大学入学共通テストの出願が25日に始まりました。来年1月18、19日に実施されます。科目として新たに「情報」が加わり、国立大学の志願者は6教科8科目の受験が基本となります。

受験の天王山と呼ばれる夏休みが終わり、本格的な受験勉強へ力を入れ始めた受験生も多いのではないでしょうか。私の受験はコロナウイルスに振り回された印象があります。浪人を決意し、2020年4月に入った予備校は当初から対面授業が中止になりました。

もう一つ振り回されたものがあります。それは、「9月入学」導入をめぐる議論です。これは、20年4月からの休校が長引くなかで巻き起こった議論で、全ての学校の入学時期を9月へずらすことを提唱するものでした。

ネット上では、休校を余儀なくされ、生徒同士で交流する機会を奪われる中で、学校の入学・始業時期をずらすのはどうかとの提案がされ、多くの賛同が寄せられました。

宮城県の村井嘉浩知事(当時)は、教育格差解消のためにも9月入学が望ましいと発言。さらには、衆議院予算委員会でも取り上げられ、安倍晋三首相(同)が「前広にさまざまな選択肢を検討していきたい」と答弁するなど政府からも9月入学に前向きな姿勢が示されました。

教育に地域格差が生じていることに伴って9月入学を実施すべきとの声のほかに、欧米の大学で主流となっている秋入学に合わせることで、留学生が往来しやすくなり、国際化の進展に寄与するとの指摘もありました。こうして、主に教育格差の解消と国際基準に合わせるという二つの利点から9月入学の導入が検討され始めました。しかし、議論はそう長続きしませんでした。

20年6月2日に自民党のワーキングチームは、検討作業を経て「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と結論づけました。同チームの提言書を受けて、安倍首相も「直近の今年度あるいは来年度の、法改正を伴う形での制度の導入は難しい」として導入を見送る方針を固めました。さらに提言では、総理の下に置かれた会議体で、継続して議論することの必要性も提言されました。

ただ、この9月入学議論は、コロナ禍という特殊な状況で起きた一過性のものだった印象を拭えません。拙速との理由から見送られた9月入学導入案ですが、その後を見ると議論が続いているわけではないようです。ただ、あれだけ大きな反響を生んだ政策案ですから再び検討する価値はあるのではないでしょうか。議論の継続を望みます。

参考文献

26日付朝日新聞朝刊(東京14版)社会面「変わる共通テスト いよいよ出願」

参議院常任委員会調査室・特別調査室『9月入学導入の見送り ― 新型コロナウイルス感染症拡大を契機とした議論を振り返る』

NHK『首相「9月入学」今年度・来年度からの導入 事実上見送る意向』

NHK『「9月入学」なぜ見送り?』