同じ国なのに言葉が通じない!? 多民族国家ネパールに行ってみました

筆者は夏休みを利用してインドと中国に挟まれた内陸国ネパールに行って来ました。世界最高峰のエベレストをはじめとする数多くの山が連なる山岳国家で、毎年、世界中からトレッキングをするため多くの登山客が訪れます。山岳地帯には昔から多くの少数民族が暮らしています。100を超える民族が共存している国ではどのようにコミュニケーションを取っているのでしょうか。

ネパールはバスが主な交通手段(8月19日、筆者撮影)

ネパールに到着して最初の一週間は首都カトマンズ付近に滞在していました。その後は、2時間ほどバスに乗り、シンドパルチョーク郡のリゾートエリアであるスクティーに移りました。スクティーには大きな川が流れておりラフティングを楽しむことのできる場所としても有名です。

川沿いにリゾートが立ち並ぶスクティ(8月21日、筆者撮影)

散策しているとネパールの挨拶「ナマステ」ではない言い回しでコミュニケーションを取っている村人を見つけました。聞こえてきたのは「フェアフンジー」。これは主にネパール北部のヒマラヤ山岳地帯に住むタマン族が使います。筆者は滞在先の近くに住むタマン人、カピル・クマール・ラマさん(47)にお話を聞きました。

川の近くに住むカピルさん(8月21日、筆者撮影)

現在、タマン族は100万人以上で国の人口の6%を占めます。日常生活ではネパール語が主ですが、タマン語やタマン文字など民族独自の言語も存在します。タマン語は家庭の中や同じ民族のコミュニティで使うことが多いといいます。しかし、現在は言葉を話すことができてもタマン文字を読み書きできる人は少なくなっています。また、同じタマン族でも地域によって少しずつ言葉が違うこともあるそうです。

タマン文字で書かれた墓地。形はチベット文字に似ている。スクティからバイクタクシーで15分ほどのカリカ村で撮影(8月17日)

「おはよう」、「こんにちは」にあたる挨拶が「フェアフンジー」です。「元気ですか?」「元気です」は「ジャバンムラ」。元気ではない時は「ジャバアレ」と発音します。村の人にネパール語ではなくタマン語で挨拶をしてみたら笑顔を浮かべて喜んでくれました。

現在、小中学校では英語で授業が行われておりネパール語をあまり使わないといいます。お年寄りは英語を話せない人が多いですが、子供たちは英語の読み書きが出来ます。実際に小学校の教科書を見てみると英語で書かれていて驚きました。

スンコシ川にかかるつり橋は1968年に作られたという。少し怖いが渡ることは可能(8月21日、筆者撮影)

8割を超えるネパール人がヒンドゥー教を信仰しているなか、タマン族の多くは仏教徒です。親切で勤勉で礼儀が正しい人が多いといいます。そしてタマン人の人口は昔よりも増えています。

カピルさんは家の横を流れるスンコシ川や目の前に広がる美しい自然が大好きだといいます。元々、スクティーで生まれ育ちましたが、勉強をするため首都カトマンズへ行きました。その後、再び美しい自然に憧れて4年前に移住しました。

水を汲むカピルさん(8月21日、筆者撮影)

筆者はスクティーに5日間滞在しましたが、村の人々はとても親切で楽しい日々でした。ほぼ毎日、夜の8時になると停電しました。リゾート以外の建物の明かりは消えて村は暗くなり、川が勢いよく流れる音が響きます。停電するといつも家の外に出て自然を眺めていました。30分くらい経つと電気が使えるようになります。

日本では多少の方言はありますが北から南まで言語が通じないことはありません。しかし、多くの民族が暮らすネパールでは地域によって言語が通じないことがあることを知り驚きました。これからも感謝の気持ちを忘れずに、世界の文化に目を向けていこうと思います。